2025年ノーベル物理学賞発表の瞬間(写真:新華社/アフロ)
(小谷太郎:大学教員・サイエンスライター)
2025年10月7日、119回目のノーベル物理学賞は「電気回路におけるマクロな量子トンネル効果とエネルギー量子化の発見」の功績で、米国のカリフォルニア大学バークレー校のジョン・クラーク名誉教授(83)、イェール大学のミシェル・H・デヴォレ名誉教授(72)、カリフォルニア大学サンタバーバラ校のジョン・M・マルティニス名誉教授(推定67)が受賞しました。
現在ではすっかり大家となった受賞者らが若手研究者だった1980年代、3人の集まったカリフォルニア大クラーク研の実験室では、そして物理学業界では、いったい何が進行していたのでしょうか。
超伝導ジョセフソン接合とは
この研究成果を説明するには、まず「超伝導」とは何か、「ジョセフソン接合」とはなにものかを説明しないとなりません。そんなの知ってるとおっしゃる方はどうぞ飛ばして次の節へお進みください。
超伝導とは、低温で物質の電気抵抗が完全に0になる驚きの現象です。1911年にこの現象を発見したオランダの物理学者カメリング・オネス(1853-1926)は、1913年に速攻でノーベル物理学賞を受賞しました。
以後現在に至るまで、超伝導現象は次々に驚くべき発見・発明をもたらし、世界は驚きっぱなし、ノーベル賞をあげっぱなしの状況です。超伝導分野のノーベル物理学賞は7本、全受賞研究の6%を占めます。今後も当面この分野の活気は続く見込みです。
英国ケンブリッジ大学のブライアン・デヴィッド・ジョセフソン名誉教授(1940-)は、1962年、まだ大学院生だった時に、超伝導を利用した電気回路部品「ジョセフソン接合」のアイデアを発表します。
ジョセフソン接合は、2個の超伝導体を、ほんのちょっぴり隙間をあけて設置したものです。
そう聞くと、なんだかそもそも接合していないし、電流も通過しない気がするのですが、しかし電子は、「量子力学」といういろいろ奇妙な物理法則に従います。量子力学によると、電子は条件がそろえば、壁を透過し空間を飛び越え、ジョセフソン接合の隙間を通過して電流を流すのです。
例えばジョセフソン接合の隙間に磁場をかけたり電磁波を浴びせたりすると、それに応じてジョセフソン接合は電流を通過させたりまた閉じたりするのです。