日本列島に住まう私たちは、巨大地震とどのように付き合っていけばいいのだろうか。

(小谷太郎:大学教員・サイエンスライター)

 2024年8月8日16時43分、宮崎県沖の日向灘で地震が発生しました。その2時間後、気象庁は「⼤規模地震の発⽣可能性が平常時と⽐べて相対的に⾼まっている」として、「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」を発表しました。

 これにより、海水浴場や施設が閉鎖されたり、列車が運休したり、イベントが中止されるなどの影響が出て、人々は不便で不安な日々を過ごすことになりました。地域によってはたまたま南海トラフ地震とは無関係な地震が発生したりして、鳴り響く緊急地震速報が人々をぎょっとさせました。

 幸いにも南海トラフ巨大地震は発生せず、8月15日に「政府としての特別な注意の呼びかけ」は終了したのですが、日本で、政府や公的機関が、巨大地震を予見するかのような発表をしたのはこれが初めてのことです。記憶に留めるべき重要なできごと、大げさに表現すれば歴史的事件です。

(もしかしたらみなさんの中には、地震の研究が進んだ結果、ついに予知がある程度できるようになった、と期待した方もおられるかもしれません。)

 内閣府と気象庁は、呼びかけの終了にあたって、「『日頃からの地震への備え』については、引き続き実施してください」と述べております。そこでこの機会に、南海トラフ巨大地震およびその他の巨大地震について、どのような心構えをしておくべきか、確認しておきましょう。

 まずは、以下の設問に答えてみてください。

Q1. 次に来る巨大地震(マグニチュード8以上)は、おそらく南海トラフ巨大地震だろう。 【そう思う/そう思わない】

Q2. 実際に南海トラフ巨大地震が起きる際には、事前に「巨大地震警戒」または「巨大地震注意」が発表されるだろう。 【そう思う/そう思わない】

Q3. 南海トラフ巨大地震の予知が難しいとしても、「東海地震」というやつは予知できる可能性があるんだよね? 【そう思う/そう思わない】

・・・これらの問いは、地震研究についての正しい理解があれば、答えが全てひとつに決まります。いずれも【そう思わない】を選ぶのが、現状では正解です。

 いかがでしたか。ひとつでも【そう思う】と答えてしまった方や、自信をもって選択できなかった方(地震だけに)は、どうぞ本文をお読みください。どうして【そう思わない】が圧倒的正解なのかを、地震予知研究に携わった経験のある筆者が説明しましょう。