南海トラフ巨大地震の起きる前に「警戒」や「注意」が発表される見込みは低い

 今回の「巨大地震注意」は、日向灘で発生したマグニチュード7.1の地震を理由として発表されました。(マグニチュード7程度は、相当大きな地震ですが、巨大地震と呼ぶほどではありません。)

 気象庁の資料によれば(※3)、マグニチュード7.0以上の地震が発生した後、50キロメートル以内で巨大地震(マグニチュード7.8以上)が発生する確率が数倍高まるといいます。東日本大震災(平成23年東北地方太平洋沖地震)もそういう地震の後に起こったというから、なんだか怖くなるじゃありませんか。

「巨大地震注意」が出ている間、多くの方が、いつ巨大地震がやってくるかと不安を感じながら生活したことと思います。(正直にいうと私もちょっと怖かったです。) そして8月15日に注意が解除されると、ほっと安心したことでしょう。

 この1週間、実際どの程度危険が高まっていたかというと、これも気象庁の資料に書いてあります。世界で過去100年間に記録された1437件のマグニチュード7以上の地震のうち、1週間以内に巨大地震を引き起こしたものは、6件だといいます。

 つまり、南海トラフ巨大地震の発生確率は(気象庁の見積もりが正しいとして)6/1437 = 0.4%程度でした。

・・・あれれ? この数値は、先に見積もった日本列島全体の巨大地震発生確率とあまり変わりません。

 つまり「巨大地震注意」が出ていた間、南海トラフ巨大地震の発生確率が数倍に高まっていたとしても、日本列島全体では、さほど巨大地震発生確率は変わっていないのです。

 そして私たちが考えておくべきもうひとつの点は、「巨大地震注意」が発表されていないときの巨大地震の発生です。

 ものごとの予知とか予報というものは、予報された時にそれが起きるというだけでは不十分で、予報が出ていない時には起きない、というものでないと役に立ちません。

 もしも天気予報が、1年365日ずっと「雨が降る」といい続けていたならば、もちろん本当に雨が降って予報が当たる日もあるでしょうが、晴れの日は外れ続けるわけで、情報として無価値です。誰もそのような天気予報には耳を貸さないでしょう。

 世界の過去100年間に起きた巨大地震のうち、別の地震の後に発生した「後発地震」は、前述の通り6件でした。100年間で巨大地震は平均100回発生するので、つまり後発地震の割合は6%ということになります。

 今後、南海トラフ巨大地震であれ他の震源であれ、巨大地震はほぼ確実にやってきますが、その前に別の地震が起きて「巨大地震警戒」または「巨大地震注意」が発表される見込みは、残念ながら6%程度です。

 もしも読者のみなさんが、南海トラフ巨大地震が起きる際には、事前に「巨大地震警戒」または「巨大地震注意」が発表されるだろうと期待しておられたら、気の毒ですが94%の確率でその期待は裏切られるでしょう。

 巨大地震はほぼ確実に、予告なしにやってくるのです。