「東海地震」はどうなったの?

 東海地方や関東地方出身の方は、学校で「東海地震」について習った記憶があるかもしれません。

 東海地震とは、1970年代に提唱された、駿河湾あたりで発生すると予想されていた巨大地震です。そしてこの地震は、発生前に地殻変動などの前兆現象をとらえることによって、予知できると説明されていました。あるいは、予知できると錯覚させるような説明がなされていました。

 今でもみなさんの中には、将来東海地震が起きる際には、それを予知することができて、事前に警戒宣言が発せられるだろう、と思っている方がおられるかもしれません。

 あるいは、今回発せられた「巨大地震注意」は、東海地震の前兆現象の観測網が働いた結果であるとか、地震予知研究の成果だと感じている方がいらっしゃるかもしれません。

 残念ながら、今回の「巨大地震注意」は、東海地震の予知研究に注がれていた予算と努力のアウトプットとはいえません。

 第一に、駿河湾のあたりで巨大地震が発生するだろう、という見通しは当たりませんでした。巨大地震が次にどこで発生するかは、50年前も今も分からないものなのです。

 第二に、当時期待された「前兆すべりモデル」では、地震を予測できないことが、現在では分かっています。その事実は、気象庁ホームページにも(細かい字で)記されています(※4)。

 第三に、サイエンスの話ではないのですが、東海地震の「警戒宣言」と、今回の「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」は、制度が違います。

 東海地震の監視網を整備し、発生を予知し、内閣総理大臣が警戒宣言を発するしくみは、1978年に施行された「大規模地震対策特別措置法」によって定められています。

 一方、「巨大地震注意」や「巨大地震警戒」を発表する仕組みは、2003年に施行された「南海トラフ地震(東南海・南海地震)に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法」に基づきます。

 前者は東海地震を予知する気まんまんなのですが、後者には「予知」という言葉すら見当たりません。(政府の文書における「地震予知」と「警戒宣言」の記述は、年々トーンダウンし、2003年頃にはほとんど見られなくなります。)

 これは東海地震を予知する仕組みが失敗したことを踏まえている、と好意的に解釈することもできますが、大規模地震対策特別措置法は現在も残っています。もしかしたら知識をアップデートしていない教育現場では、いまだに東海地震について、予知できる巨大地震として教えているところがあるかもしれません。

 結論ですが、東海地震は予知できず、気象庁もそれを認めています。将来「警戒宣言」が発表される見込みはありません。