巨大地震を引き受ける日本列島に住む

 ところで私は、かつて理化学研究所にいたころ、半年ほど地震予知の研究に参加したことがあります。

 その地震予知手法は、地震の前兆として電離層に異常が生じる可能性があるので、それを電波受信機で感知する、というものです(※5)。

 これはアマチュア天文家の串田嘉男氏と串田麗樹氏が提唱した予知手法です。流星は大気をイオン化するので、これをラジオ受信機で感知するという観測方法があるのですが、串田夫妻はこの観測を行なっていて、どうも受信状態の異常が地震の前に頻発するようだ、と思い至りました。

 理研の研究は、この「前兆現象」を統計的に検証するというものでした。私が担当したのは、電波状態の測定データと気象庁の地震データの相関を計算し、「地震予知サーバー」を立ち上げてインターネットで公開するという部分です。

 残念ながら、電波状態と地震には、統計的に有意な相関は見られませんでした。電離層の異常は、他の多くの「前兆現象」と同じく、地震予知に使えませんでした。(私がその研究グループを離れた後、地震予知サーバーは理研の偉い人の指示で公開を停止されました。)

 この経験の教訓は、世には実にさまざまな地震予知手法が提唱されていて、中には明らかにでたらめなものから、電離層の異常や前兆すべりのような、かなり期待された手法まであったのですが、結局どれも成功しなかったということです。

 大地の振る舞いは本質的に予測不能で、地震は実に難しい現象です。

 結論ですが、「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震警戒)」や「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」は、残念ながら全く当てにできません。日本列島のどこにいても、1週間に0.4%程度の確率で、予告なしに巨大地震がくる可能性があります。日本列島に住むことになってしまったら、これを念頭に入れて、普段から巨大地震に備えておきましょう。

※1:内閣府「1. 南海トラフ地震とは?」
※2:気象庁「地震について」
※3:気象庁「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)について」
※4:気象庁「東海地震とは」
※5:Yoshio Kushida, Reiki Kushida, 2002, "POSSIBILITY OF EARTHQUAKE FORECAST BY RADIO OBSERVATIONS IN THE VHF BAN," Journal of Atmospheric Electricity, Vol. 22, No. 3, 239.