2017年にハッブル宇宙望遠鏡がとらえた超新星1987A(中央)。 Image by NASA, ESA, and R. Kirshner (Harvard-Smithsonian Center for Astrophysics and Gordon and Betty Moore Foundation) and P. Challis (Harvard-Smithsonian Center for Astrophysics).

(小谷太郎:大学教員・サイエンスライター)

 先日2024年2月22日、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による超新星1987Aの観測結果が発表されました(※1)。超新星1987Aとは、1987年に出現した超新星で、天文学者や宇宙物理学者の大好きな天体です。

 爆発から36年経過した超新星は、当時ほどの輝きはないのですが、まだ熱い爆風が数千km/sという猛烈な速さで宇宙空間に広がっていて、これはこれで結構な見ものです。こういう超新星の成れ果ては「超新星残骸」と呼ばれます。

 今回の観測結果は、超新星爆発の爆心に中性子星が誕生した、というものです。

 中性子星とは何者で、どうして超新星爆発によって誕生するのでしょうか。どうしてそれが誕生すると天文学者が孫の誕生のように喜ぶのでしょう。

 この記事では、1987Aの爆心に生まれたモノについて説明し、それから少々長くなりますが、あのオッペンハイマーがブラックホールという不可思議な物体を予言した件についても話をしましょう。

恒星の最後のきらめき

 超新星とは恒星が寿命の最期に起こす大爆発です。恒星というと太陽の仲間で、普段からぎらぎら光ってますが、それが突如として100億倍程度も明るくなるものです。地球からは、夜空の一角に、昨晩まではなかった明るい星が出現したように見えます。

 このような派手な現象は滅多に起きるものではありません。肉眼で見える超新星、つまりここ天の川銀河内かその近隣の銀河内で発生する超新星は、50年〜100年に1発くらいの珍しいできごとです。

 1987年に超新星1987Aが出現するまでは、肉眼で見えた最後の超新星は超新星1604でした。名前からお分かりのように西暦1604年に発生したもので、天文学者ヨハネス・ケプラー(1571-1630)によって観察されました。

 超新星1987Aは、天の川銀河のおとなり大マゼラン雲で爆(は)ぜた超新星で、実に383年ぶりに目視できる超新星でした。(ただし383年の間に天文学者が記録しそこなった超新星もあると考えられています。)

 383年とは長い年月です。天文学者の望遠鏡が、手作りの簡単なものから巨大な反射望遠鏡に進化し、さまざまな波長を観測する宇宙望遠鏡や天文衛星が打ち上げられ、ニュートリノなどの電磁波以外の手段で宇宙を探る装置が開発されるくらいの年月です。

 超新星1987Aはそうした現代観測装置が待ち構えているところに出現した初めての超新星だったのです。出現が報じられた途端、もう衛星軌道上や地下や地上(ただし南半球に限る)のあらゆる観測装置が、このスーパースターに突き付けられ、データを貪欲に採取しました。