半導体回路は放射線検出器
問題となったネットワークスイッチとは、ローカルエリアネットワーク(LAN)に用いられる機器です。LANというと今では家庭にもあって、ゲーム機やスマートフォン、パソコンを電波やケーブルでつないでいます。それがどうしてテレビ放送局にあるかというと、デジタル放送信号はさまざまな機器の群れ(「マスター設備」と呼ばれる)によって合成されますが、そうした機器類がLANによって結ばれ、制御されているからです。
そのLANの部品であるネットワークスイッチは、雑に説明すると家庭用のルーターのちょっと豪華なやつで、マスター設備の機器類を(光か金属の)イーサネットケーブルでつないでいます。なのでネットワークスイッチがおかしくなったら、つながれた機器が機能しなくなり、放送事故が生じるのは無理もありません。
ネットワークスイッチの内部では半導体からなる回路が演算したり記憶したり入出力したり猛然と働いています。
半導体とは電子回路の部品であるトランジスタの原材料ですが、実は放射線検出器にも使われる素材です。
半導体を用いるタイプの放射線検出器は、半導体に電圧をかけて、放射線を待ち受けます。「逆電圧」と呼ばれる向きに電圧をかけておくと、ふだんは半導体に電流が流れません。しかしそこに「荷電粒子」などの放射線がやってきて、半導体中を通過すると、刺激された半導体原子が電子を放出します。(電子の抜けた「跡」は「正孔(せいこう)」と呼ばれ、半導体によってはこれが粒子のように振る舞います。) この電子や正孔が電圧にしたがって移動し、電流が生じ、半導体につながった電子回路が働いて、放射線がやってきたことを知らせます。
これが半導体を用いる放射線検出器の原理です。
ところで、このプロセスは電子回路に使われている半導体素子にも働きます。演算したり記憶したり入出力したりと役目を果たしている半導体に放射線が当たると、電子と正孔が生じ、流れてはいけない電流が流れたり、変化してはいけない電圧が変化したりしてしまうのです。これが起きると、演算や記憶や入出力がおかしな値に変わってしまう可能性があります。
こういうことがあるため、電子機器に用いられている半導体回路は、見方を変えれば放射線検出器であるともいえます。電子機器がおかしな挙動を示すことによって、放射線が当たったことを知らせるというわけです。(熱や静電気や電磁雑音といった、放射線以外の原因で電子機器がおかしくなることもあります。)
ただしもちろん、放射線検出器はやってきた放射線を敏感に捉えるようにデザインされますが、電子回路は放射線や熱や静電気や電磁雑音などになるべく影響されない方が望ましいことは、いうまでもありません。