中性子線とは
放射線とは、エネルギーの高い、つまり速い微粒子です。電子でも光子でも陽子でもイオンでも何でも、微粒子で高エネルギーなら放射線とみなされます。ころんとその辺に転がっている粒子と、高エネルギーで突っ走るものを区別するため、後者は「電子線」「中性子線」などと「線」をつけて呼ぶことがあります。
放射線は珍しいものではなく、そこら辺を絶えずびゅんびゅん飛び交っています。
宇宙からは絶えず地球に放射線が降り注いでいて、これは「宇宙線」と呼ばれます。太陽はかなり強力な宇宙線の放射源で、ニュートリノや陽子や電子やイオンなどをせっせと宇宙空間に撒き散らしています。太陽のほか、宇宙線は天の川銀河内の超新星残骸や正体のよく分からない天体からやってきていると考えられています。
宇宙線は、地球の磁場や大気に衝突して止められ、直接地表に降ってくるものはほとんどありません。そのかわり、宇宙線と大気の原子の衝突によって生じた「ミュー粒子」や「中性子」などは雨のように地表に降り注いできます。地表に最も大量に降ってくる粒子は(ニュートリノをのぞくと)ミュー粒子です。
ミュー粒子は電子によく似た素粒子ですが、電子よりも重くて寿命が短いという違いがあります。地表に放射線検出器を置くと、1平方センチメートルあたり1分にだいたい1発のミュー粒子が大気上層から降ってくるのが分かります。あなたの体もこの記事を表示している電子機器も、地球表面におられるならこのミュー粒子爆撃を受けています。
中性子は原子の中心の核に含まれているため、そこら辺にも人体内にも宇宙にも豊富にあります。ただし原子核から中性子を単独で取り出すと、平均寿命約15分で壊れ、陽子と電子とニュートリノに分解してしまいます。したがって、もしも単独の中性子を見かけたら、ここ数分以内にどこかの原子核からこぼれ出たものと思っていいです。おそらく宇宙線との衝突によって大気上層の窒素原子核か酸素原子核が壊れ、その際にこぼれ出た中性子が(ミュー粒子と同様に)降ってきたのでしょう。
ミュー粒子線や中性子線やアルファ線やガンマ線などの放射線は、それぞれ物質に対する影響や振る舞いが違います。
ミュー粒子のような荷電粒子が物質中を高速で通過すると、その経路にある原子や分子はイオン化し、半導体なら電子と正孔が生じます。
中性子は電荷を持たないため、そうした電気的な反応をせず、中性子線は痕跡を残さず忍者のように物体内に侵入します。そして物体深部で原子核と衝突し、そこで初めてイオンや電子や正孔を生じます。
(どんな種類の放射線がどんな反応をするか理解することは、物理学を専攻する学生には必須で、授業や学生実験などで学習します。)