米英両国が中東・イエメンの反政府武装組織フーシ派の拠点を攻撃しました。アジアと欧州を結ぶ要衝である紅海を航行する商船に攻撃を続けてきたフーシ派に対し、とうとう報復に出た形です。米国側は「貿易など経済的利益を守るため」と説明していますが、心配なのはイスラエルとパレスチナのイスラム組織ハマスの戦争が続く中、中東地域の紛争がさらに拡大しかねないことです。一方のフーシ派は、イスラエルがパレスチナへの攻撃をやめない限り、商船攻撃を続けると言っています。いったい何が起きているのでしょうか。
(西村卓也:フリーランス記者、フロントラインプレス)
「反米イラン」と深い関係
1990年に南北イエメンが統一して一つのイエメン共和国が誕生した後、北部ではイスラム教の教義をめぐって隣国サウジアラビアと対立するシーア派主導の運動が拡大しました。2000年代に入ると、その勢力は米国の「対テロ戦争」に同調するイエメン政府とも対立。さらに指導者のフーシ師が治安当局に殺害されたことから反政府組織としての性格を強めました。正式名称は「アンサールアッラー(神の支持者)」ですが、敵対勢力や外国からは指導者の名を取って「フーシ派」と呼ばれることが多いようです
フーシ派はイエメン政府の政治腐敗を批判し、次第に国内で支持を広げました。2012に就任した新大統領は国民対話を進めましたが、政情は安定せず、フーシ派は2014年に大規模な反政府デモを展開して首都サヌアを制圧します。大統領は南部アデンに逃れ、イエメンは2つの勢力が並び立つ内戦状態に陥りました。その後、サウジなどがイエメン政府側を支援する軍事作戦などを仕掛けましたが、フーシ派は衰えません。外国の仲介による和平交渉も実らず、現在に至っています。
フーシ派は強固な軍事力を持っています。後ろ盾になっているのはイラン。フーシ派もイランもサウジをライバルとしています。フーシ派はイランの革命防衛隊からミサイルやドローンなどを調達していると言われており、これらの武器が紅海の商船攻撃にも使われている模様です。
昨年10月にイスラエルとハマスの戦争が始まってから、フーシ派はイスラエルを非難し、ハマスと連帯する姿勢を見せています。ハマスが拠点とするパレスチナ・ガザ地区に対するイスラエルの攻撃はやり過ぎだとして、世界各国から批判の声が上がっていますが、フーシ派による商船攻撃も、イスラエルへの物資供給をやめ、ガザへの人道支援を確保する名目で行われています。その背景にはアラブ社会で自らの存在感を示すと同時に、イエメン国内の民衆の支持も固めたい思惑があるようです。