- 3年目に突入するロシアとウクライナの戦争。戦時経済体制への移行が進むロシアでは、民需の反発と軍需の増大という2つの側面から2023年に3.6%の経済成長を実現した。
- もっとも、輸出の低迷と輸入の高止まりで経常収支の黒字は縮小しており、戦争を継続するには、政府部門の赤字を民間部門の黒字でカバーするしかない。
- 石油・ガスの輸出が低迷する中で民間部門が黒字を出すには、輸入を抑制する以外になく、それは国民生活に直結する。ナワリヌイ氏の獄死で厭戦ムードも漂う中、ロシアはどこまで戦争を続けることができるのだろうか。
(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)
今年の2月24日で、ロシアとウクライナの戦争は3年目に突入する。目下、戦局はロシアに有利なようだが、戦争の終幕に向けた具体的な展望は依然として見えない。
ロシアでは戦争の長期化を受けて戦時経済体制への移行が進み、経済運営は統制色を強めている。そのロシアの2023年の実質経済成長率は、3.6%増であった。
ロシア連邦統計局によると、生産面では製造業が活況を呈して、その付加価値は前年比7.0%増と好調だった。
輸入が困難になった民生品の代替生産も低付加価値品を中心に行われたようだが、戦争の長期化に伴って増産された軍需品が、製造業の活況につながったようだ。一方で鉱業は、原油の自主減産の影響から、同2.0%減にとどまった。
需要面では、個人消費が前年比6.1%増、総固定資本形成が同10.5%増と堅調だった。また政府支出も同3.6%増と、大きく伸びた。
開戦後、ロシア連邦統計局は国民経済計算(SNA)ベースでの輸出入を公表しなくなったが、内需とGDPの成長率の兼ね合いから判断して、輸出以上に輸入が大きく増えたことに間違いはないだろう。
つまるところ、2023年の経済成長は、民需の反発と軍需の増大という2つの面から実現したと評価される。
欧米日から科された経済・金融制裁を受けて、2022年にロシアの民需は圧迫されたが、それを多少なりとも取り戻したことが景気回復につながった。さらに、戦争の長期化に伴って軍需が急増したことが、経済を動かしたのだ。
とはいえ、経済を運営するに当たって必要なヒト・モノ・カネという要素は有限であるから、軍需を優先するなら民需を犠牲にしなければならない。したがって、民生品の供給が不足し、インフレ圧力が高まる事態にロシアは陥っていると判断される。
民生品の需要が強いのではなく、あくまで供給が少ないという点に、ロシア経済の足腰の弱さがある。そのロシア経済の足腰の弱さは、経常収支の形の変化として表れている。