2017年12月18日、モスクワでAP通信とのインタビューのために身支度を整えるアレクセイ・ナワリヌイ氏(写真:AP/アフロ)

(国際ジャーナリスト・木村正人)

摂氏マイナス30度の「ホッキョクオオカミ」刑務所

[ロンドン発]ロシアのウラジーミル・プーチン大統領を批判し、昨年12月に北極圏のヤマロ・ネネツ自治管区にある刑務所に移された反政府活動家アレクセイ・ナワリヌイ氏(47)が2月16日獄死した。ナワリヌイ氏は2020年8月モスクワに向かう機中で致死性の神経剤ノビチョクを盛られたことがあり、西側からプーチンの責任を追及する声が続いた。

 露国営タス通信によると、ナワリヌイ氏は16日、摂氏マイナス30度まで気温が下がり「ホッキョクオオカミ」の異名がある刑務所で散歩した後、気分が悪くなり失神した。必要な蘇生処置が施されたが、ナワリヌイ氏は回復せず、救急隊員は死亡を宣告した。ナワリヌイ氏は2月13、15日、地裁による控訴状のビデオ審問に参加しており、体調は良好そうだった。

 英紙タイムズ(2月17日付)は、ナワリヌイ氏の死が確認される2日前、ロシア連邦保安局(FSB)の職員数人が刑務所を訪れ、設置されていた監視カメラや盗聴器を切断し、分解したと報じた。この訪問はロシア連邦刑務局の地元支局の報告書に記載されていた。ロシアの反汚職・人権団体Gulagu.netによると、ナワリヌイ氏の死は異例のスピードで発表された。

 死亡時間の2分後に刑務所は広報文を発表。4分後にメッセージアプリ「テレグラム」で死因は血栓塞栓症と明らかにされ、7分後にはモスクワのドミトリー・ペスコフ大統領報道官がメディアにこの件について語った。「心不全」と記された死亡診断書を受け取ったナワリヌイ氏の母リュドミラさんが霊安室に到着すると、遺体は別の場所に移され消えていた。

ナワリヌイ氏の遺影や花束が置かれた在英ロシア大使館前(2月17日筆者撮影)