(勢古 浩爾:評論家、エッセイスト)
2月16日の夜遅く、ヤフーニュースの見出しの項目に「ナワリヌイ氏、死亡」の文字を見つけ、驚いた。本欄の21日用に別の原稿を準備していたが、この報道にふれないわけにはいかない。急遽、内容を変え、情報を集め始めた。
わたしが見た第一報の記事はこのように簡単なものだった。
「2月16日、ロシアの反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏が刑務所内で死亡したと、インタファクス通信が同国の刑務所及び拘置施設を管理するロシア連邦刑執行庁(FSIN)の情報として報じた」
「インタファクスが引用したFSINの発表によると、ナワリヌイ氏は『散歩の後で体調不良を訴え、そのほぼ直後に意識を失った』。国営メディア『ロシア・トゥデー』は消息筋の話として、死因は『血栓症』と伝えた」
プーチン政権は痛くもかゆくもない
わたしの第一感は、当然、「殺されたな」というものだった。
わたしはロシアや中国の報道のほとんどを信用していないが、体調不良後、意識を失ったというのは、事実らしく思われる。
この一事は、ナワリヌイが2020年8月、シベリアからモスクワへの帰途、機内で意識不明の重体に陥った事態を想起させる。軍用神経剤のノビチョクがナワリヌイの下着に仕込まれていたのだ。毒物の痕跡は数時間で消え、その後は自然死に見えるという。
そんなおなじ手を何回も使うかと思うが、かれらに常識は通用しない。機内で殺されそうになったときも、ナワリヌイ自身が「“プーチンのサインであるノビチョク”を使うとはアホか、マヌケか」と驚いたくらいである。