しかし今年1月中旬になっても、集まった署名は1万人分ほどしかなかった。ところが1月16日、反体制派のリーダーの一人で元市議会議員のマキシム・カッツがYouTubeで、ナジェージュジンの「反戦」「反プーチン」は本物であり、「勇気ある行為」だと支持を表明したのである。それを契機に、かれの署名活動はたちまちロシア全土に広がった。

 多くのロシア人が極寒のなか、警察の監視も恐れず、「反戦」を訴える候補への署名のために行列を作ったという。そしてわずか2週間で20万人もの署名を集めたのである。保守層とみられた高齢者や地方の人々からも、署名は集まった。

 ナジェージュジンは「開かれた誠実な形で署名を集めた」堅実な10万4734人の署名を中央選管に提出した。しかし慌てた選管は、無効が9147人分あり、登録に必要な10万人分に届かなかったといい、ナジェージュジンの大統領選出馬を認めなかった。

 署名には、名前に加えて住所や連絡先が記されているらしい。中央選挙管理委員会から当局の手に渡れば、悪用される恐れは十分にある。にもかかわらず、20万人以上の人が署名をしたのである(「“反プーチン”候補が躍進 支持者「戦争に疲れた」…ロシアで高まる「反戦」機運(2)」、テレ朝news、2024/2/8)。

 プーチンのやり口を熟知しているはずのナジェージュジンは、反プーチンを掲げてよく立候補したものである。かれは「私を選挙から締め出すことは簡単だ。しかし、政権の方針に同意せず、変化を求める、数千万人の国民の存在をどうするのか」といったが、かれは今後も法廷で争うつもりだ。しかし全国的な大規模の抗議行動が起こるのは期待できない。かれも無事なのか。

ナワリヌイが映画で語った自らの「死」

 ナワリヌイの周囲にはつねに「死」の予感が漂っていた。

 記事『「プーチンが最も恐れた男」ナワリヌイが身をもって示したロシアの良心』(2023年4月5日掲載、2024年2月17日再掲載)でも引用したが、ナワリヌイの「死」に関するインタビューの場面をより詳しく採録しておこう。

 映画の冒頭、ナワリヌイは、ダニエル・ロアー監督に、「嫌だろうけど考えてくれ、もし殺されるとしたら、ロシアの人々にどんなメッセージを残す?」と訊かれる。

 ナワリヌイは、勘弁してくれよというような表情をしながら、「カモーン、ダニエル。そんな質問するなよ。僕の追悼映画みたいだ。その質問への答えはある。でも2本目の映画にとっておこう。僕が殺されたら退屈な追悼映画を作ってくれ」といい、そこでインタビューはいったん終わる。

 そして、映画の終わりの場面。ナワリヌイは妻のユリアとともに、ドイツからモスクワへ帰り、逮捕連行される。緊迫の場面がつづく。

 刑務所の全景が映し出される。丸坊主になったナワリヌイが鉄格子の間から両手を出し、Vサインを示す。

 そこでインタビューのつづきが映し出される。