監督から「もし逮捕され、投獄されるか、殺されるとしたら、ロシアの人々にどんなメッセージを残すか?」と訊かれたナワリヌイは、こう答えている。

「僕が殺された場合のメッセージは」といったあと、しようがないなというように「フッ」と半笑いをして、「単純だ。“諦めるな”だ」という。

 監督にロシア語でも答えてくれ、といわれ、ナワリヌイはつづけてこういった。

「僕が命を狙われたのは、僕らが信じられないほど強いからだ。(略)僕らが持っている巨大な力は悪い連中に押しつぶされている。本当は強いのに僕らに自覚がないからだ。悪が勝つのはひとえに善人が何もしないから。行動をやめるな」

 こういって、わかったかい? というように視線を一瞬定め、それから晴れやかに笑った。晴れやかだったのか?

映画『ナワリヌイ』で第95回アカデミー賞最優秀長編ドキュメンタリー賞を受賞したダニエル・ロアー監督(写真:ロイター=共同)映画『ナワリヌイ』で第95回アカデミー賞最優秀長編ドキュメンタリー賞を受賞したダニエル・ロアー監督(写真:ロイター=共同)

 観光ガイドの23歳の女性は、仏AFP通信の取材に、「ナワリヌイ氏は何よりも反体制運動の象徴、もう少し明るい国の未来に向けた希望の象徴だった。彼の死とともに希望も失われた気がする」と語った。

 彼女の気持ちはわかる気がする。やっぱり死んではだめだ。

 生物学を専攻する27歳の学生は「前向きな変化を信じられなくなるので、国を出たいという思いになる」と語った。

 モスクワ市民の一女性は、「恥ずかしいこと。衝撃を受け、動揺している。彼の家族に対して恥ずかしい。彼はまだ若く、長生きすべきだった」といった。

 ロシアの精一杯の良心である。