国民民主党の玉木代表。求めていた「年収103万円の壁」の引き上げが実現した(写真:共同通信社)
国民民主党の玉木代表。求めていた「年収103万円の壁」の引き上げが実現した(写真:共同通信社)

 自民、公明、国民民主3党は11月20日に合意した経済対策で、国民民主の求める所得税が課される最低ラインである「年収103万円の壁」を引き上げることを決めたと発表した。だが、「103万円」は本当に「壁」なのか? そもそも、真に議論すべきポイントはそこなのか? 社会保障や財政学を専門とする小黒一正・法政大学教授に聞いた。(聞き手:草生 亜紀子、フリーライター)

「103万円の壁」は本当の「壁」ではない

──俗に「年収の壁」とされるものには、「103万円の壁」「106万円の壁」「130万円の壁」など、さまざまなものがあります。主な収入を得る人の扶養の範囲内で働こうとする人の収入が一定額を超えると、税金や社会保険料の負担が増えて手取りが減るポイントを「壁」とするならば、それぞれ本当に「壁」なのでしょうか?

小黒一正氏(以下、小黒):103万円は「所得税が発生するボーダーライン」なので、仮に給与所得が103万円から104万円になると所得税510円が徴収されますが、差し引きで手取りは9490円増えます。

 また、夫婦二人の世帯として考えると、配偶者特別控除の対象となる妻の給与所得が150万円まで引き上げられたことで、201万6000円未満の時は控除が段階的に縮小されるため、仮に配偶者控除がゼロになったとしても世帯合計の手取りが減ることはありません。配偶者特別控除が2018年に見直された結果です。

 確かに、配偶者ではない被扶養者(大学生の子供など)の収入が103万円を超えると、所得税が徴収されて手取りが減ります。国民民主党が主張する「103万円の壁」はこの部分の壁だと思いますが、この壁の解決でも、配偶者特別控除のような仕組みを導入すればよいと思います。

 もっとも、本当の意味で負担増が収入増を上回る「壁」が存在するのは、106万円と130万円を超える場合です。

小黒一正(おぐろ・かずまさ) 法政大学経済学部教授。京都大学理学部卒業。大蔵省(現財務省)入省。財務省財務総合政策研究所主任研究官、世界平和研究所研究員、一橋大学准教授などを経て現職。主な著書に『日本経済の再構築』(日本経済新聞出版刊)、『日本再生への25のTODOリスト』(講談社+α新書)。