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昨年12月、突如インタビューに応じて「人命が大事だ」と語ったプーチン大統領の長女マリヤ・ボロンツォワ氏(Medtech.moscowのYouTubeより)昨年12月、突如インタビューに応じて「人命が大事だ」と語ったプーチン大統領の長女マリヤ・ボロンツォワ氏(Medtech.moscowのYouTubeより)

(文:名越健郎)

昨年末、プーチン大統領の長女マリヤが突如としてメディアに登場した。その思惑について、一部の独立系メディアは「将来要職に就く前触れの可能性」と分析した。大統領を支える側近の子息たちが徴兵されず、利権を与えられて豪邸や高級車を所有していることはロシア国内でもたびたび報じられている。プーチン政権が異例の通算5期目を迎えようとする中、政界においても着々と世襲の準備が進んでいるという。

 3月15~17日の日程で行われるロシア大統領選は、ウラジーミル・プーチン大統領が圧勝で5選を決める無風選挙となりそうだ。唯一、ウクライナ侵略戦争反対を唱えたボリス・ナデジディン氏は、推薦人名簿の不備で出馬を認められなかった。4候補による選挙はプーチン氏の当選を追認する「儀式」となり、国民の関心も低下している。

 エリートの間では、大統領選よりもその後に予定される内閣改造に関心が強いようだ。大統領は5月の就任式後、首相を指名して組閣を行う。閣僚ポストは利権と直結するだけに、誰が新閣僚になるのか、エリートは無関心でいられない。

 ロシアでは、政権エリート二世が政界に進出する動きもみられる。プーチン政権要人やオリガルヒが70歳前後と高齢化するに伴い、子弟へのビジネス利権継承が進んでいたが、政治の世襲も要注意だ。

大統領長女が「保健相」説

 エリート二世では、プーチン大統領の長女で小児内分泌科医、マリヤ・ボロンツォワ氏(38)が昨年12月16日、医療系非営利団体のインタビューに応じて注目を集めた。大統領には、離婚したリュドミラ元夫人との間に二人の娘がいるが、娘の存在を秘匿してきただけに、インタビューに応じたのは異例だ。

 国立モスクワ大学基礎医学部の副学部長も務めるボロンツォワ氏は約40分に及んだインタビューで、「子どもの頃から医者になることを夢見ていた」「ゲノム編集技術を使って慢性疾患や先天性疾患の治癒を進めたい」などと述べた。

 また、「(ロシアは)経済中心の社会ではなく人間中心の社会だ」「最も価値があるのは人間の命だ」と語った。文学への興味も語り、好きな作家としてプーシキンやドストエフスキー、清少納言を挙げた。家族については一切語らなかった。

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