- 原油市場で強気、弱気の材料が交錯している。中国不動産大手・中国恒大集団に対する香港高裁の法的整理命令を受け、中国経済のさらなる減速懸念が下押し圧力になっている。
- 一方、中東情勢の緊迫化が相場の上昇圧力となっている。特に、武装組織フーシ派によるロシア産ナフサを積んだタンカーへの攻撃が、転換点となるかもしれない。
- フーシ派はロシアと友好関係にあり、ロシア産の石油を運ぶタンカーは安全とされていた。だが、「例外」はもはや通用せず、次の標的としてサウジアラビア産石油を運ぶタンカーへの攻撃が懸念され始めた。
(藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー)
1月29日の米WTI原油先物価格(原油価格)は前週末比1.23ドル(1.6%)安の1バレル=76.78ドルと4営業日ぶりに反落した。原油価格は一時79.29ドルと約2カ月ぶりの高値を付けたが、その後、中国経済の減速懸念で下落に転じた。
香港の高等法院が同日、経営再建中の中国不動産大手・中国恒大集団の法的整理手続きの開始を決定したからだ。これにより中国の不動産市況がさらに悪化し、同国の原油需要の伸びが鈍ると嫌気された。
足元の原油市場は強弱材料が交錯している。中東地域を中心とする地政学リスクが相場を押し上げ、中国経済への懸念が下押し圧力となっている構図に変わりはないが、原油価格はこのところ強含みで推移している。
米国の好調な経済指標が転機となった。米商務省が25日に発表した昨年第4四半期の実質国内総生産(GDP)は前期比3.3%増(年率換算)と市場予想の2%を上回り、同国の原油需要に対する楽観的なムードが広がった。
GDPとともに原油価格を上昇させたのは米国の原油生産量の減少だ。
19日時点の原油生産量は前週比100万バレル減の日量1230万バレルだった。減少幅は2年4カ月ぶりの大きさだ。大寒波の襲来により、米国で有数の産油地域であるノースダコタ州でプラントの故障が相次ぎ、生産量が半減した。テキサス州でも生産量が減少している。
ロシアの原油生産にも支障が生じている。ロシア南部クラスノダール地方にある石油大手ロスネフチの製油所で24日深夜から25日未明にかけて火災が発生した。原因はウクライナ軍のドローン(無人機)攻撃によるものと言われている。この攻撃でロシアの石油製品の輸出が日量10万バレル以上減少する可能性がある。
ロシアでは21日にも、ウクライナ軍の攻撃により北西部レニングラード州にある天然ガス大手ノバテクの燃料生産施設で火災が発生している。
中東地域ではイエメンの親イラン武装組織フーシ派のドローン攻撃が同地域の石油関連施設の脅威になっているが、ロシアでも似たような状況になりつつある。