- 脱炭素に向けて世界で原子力発電の活用が進む見通しだが、エネルギー安全保障上のリスクが潜んでいる。
- 燃料となる濃縮ウランの約半分をロシア企業が生産しており、世界で建設・計画中の原発のうち約7割が中ロ製だ。
- 原油とLNGでエネルギー大国となった米国もウランをロシアから輸入している状況で、原発におけるロシアや中国への依存が脱炭素時代のアキレス腱になりつつある。(JBpress)
(藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー)
LNG輸出で世界一に
「米国の昨年の液化天然ガス(LNG)輸出は史上初めて世界第1位となった」
欧州のエネルギー調査企業ライスタッド・エナジー(RE)は今年1月、LNG運搬船の位置情報などの分析からこのような結論を導き出した。REによれば、米国の昨年のLNG輸出量は前年比1割増の約8700万トンとなり、これまでのLNG輸出大国(豪州やカタール)を抑えて首位に躍り出たことになる。
米国産LNGの輸出先として急速に伸びたのは欧州だ。ロシア産天然ガス輸入の代替調達先となった米国のシェアは2021年の3割から7割に急拡大した。
REは「米国のLNG輸出は2030年までに倍増する」と予測している。
原油でも同様の状況になっている。原油生産量は日量1300万バレルを超え、世界第1位だ。輸出量も日量約500万バレル(日本の需要量の2倍)とサウジアラビアやロシアに迫る勢いだ。
歴史を振り返れば、1930年代の米国は世界第1位の原油生産国だった。
米国がエネルギー大国に復活できたのは、シェールと呼ばれる岩石層に含まれる原油や天然ガスを掘削できるようになった(シェール革命)からだ。そのおかげでもう一つのエネルギー大国ロシアへの依存を減らすことができた。ロシアは石油精製品の米国に対する最大の輸出国だったが、昨年はゼロとなった。
米国のエネルギー安全保障は飛躍的に改善したが、アキレス腱も残ったままだ。