- 今年7月に利上げに転じて以降、ロシア中銀は金融引き締めを強化しているが、住宅ローンや企業向けローンなど貸出は高い伸びが続いている。
- その背景にあるのはプーチン政権の拡張財政。中銀がいくら金融を引き締めても、ウクライナとの戦争や政府による需要喚起策が続けば需給はバランスしない。
- ロシア中銀としては、来年3月の大統領選後に政府の歳出削減が進むことを期待するばかりだが、来年も拡張予算を志向しているため、その可能性は低い。ロシアの「戦時スタグフレーション」はまだまだ続きそうだ。
(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)
ロシア中銀は10月30日に開催した会合で、政策金利(キーレート)を2%ポイント引き上げて年15%とした。ロシア中銀は今年7月の会合で利上げに転じて以降、インフレの加速を受けて、金融引き締めを強化している。消費者物価は今年4月にボトムアウトして以降、直近10月時点で前年比6.7%まで上昇が加速した(図表1)。
【図表1 ロシアの政策金利と消費者物価】
直後の11月7日に、ロシア中銀は年内で最後となる「金融政策レポート」を発表した。この中でロシア中銀は、インフレの加速について興味深い指摘をしている。中銀は、まずインフレの主因が供給能力を凌駕する需要にあると指摘したうえで、その供給能力が通貨ルーブルの下落や労働者の不足によって低下していることを明示したのだ。
7-9月期はロシア経済の前期に続き堅調な前年比プラス成長が見込まれるが、その一因が投資にあったとロシア中銀は指摘する。特に製造業で人手不足が慢性化しており、企業は不足する人手を投資でカバーせざるを得なくなっているという見解だ。
もっとも、投資が生産能力化するまでには時間を要するため、投資が増えても生産はすぐに増えない。そのため、需要を満たすだけの供給がないまま、結局は価格だけが上昇し、それが需要を圧迫するという悪循環に今のロシア経済は陥っていると、中銀は評価を下している。
つまるところ、ロシア経済がモノ不足に陥っていることを、中銀は素直に認めているわけだ。そしてインフレ期待を鎮めるためには、中銀は金融引き締めを継続する必要がある。
現に、年平均9.9%程度であった今年の政策金利は、来年は平均で12.5-14.5%程度になるという見通しを中銀はレポートの中で示している。この高金利を受けて、来年の消費者物価上昇率は4.0-4.5%と中銀の目標(4.0%)に近づく一方、実質経済成長率も0.5-1.5%と今年(2.2-2.7%)から低下するという見通しだ。