- 化石燃料の脱ロシア化を進める欧州連合(EU)にとって、肝となるのはロシア産天然ガスの削減だ。
- 現に、ロシア産天然ガスの輸入量は前年同月比60%減と大幅に減っているが、LNG輸入量は3割近く増加している。
- EUの天然ガスの脱ロシア化は進む一方、ロシア産LNGへの依存が強まっているというアンビバレントな現象をどう考えればいいのか。
(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)
ロシアがウクライナに軍事侵攻を仕掛けた2022年2月以降、両国は交戦状態にある。しかし、米NBCテレビが米高官の話として11月4日に報じたところによれば、10月に行われたウクライナ支援の会合の場において、欧米の当局者がウクライナ政府に対して、停戦協議の可能性についての協議を持ちかけた模様である。
膠着が続いた事態にようやく変化の兆しがみられるようになってきた一方、ウクライナとロシアと同様に、欧米とロシアの関係が改善する展望は描けない。その中でも欧州連合(EU)は、いわゆる『リパワーEU』という戦略ビジョンに基づき、2027年までにロシア産化石燃料の利用をゼロにするための取り組み(脱ロシア化)を推進している。
この化石燃料の脱ロシア化を進めるうえでの肝となっているのは、ロシア産天然ガスの利用の削減に他ならない。
ロシアがウクライナに侵攻する前年の2021年時点で、EUはロシアから86.7bcm(Billion Cubic Meters:10億立方メートル)の天然ガスを輸入していた(図表1)。この量は、EUが同年に世界各国から輸入した天然ガスの総量(641.2bcm)の13.5%に相当した。
【図表1 EU27カ国のロシア産天然ガス輸入量(年初来累計値)】
なお、再輸出分を控除した最終消費分だけで考えると、EUが消費する天然ガスのうちロシア産天然ガスの割合は、2021年時点で20.1%だった。
いずれにせよ、EUがロシア産天然ガスの利用の削減に努める一方で、ロシアもEUに対する天然ガスの供給を削減したことから、2022年のロシア産天然ガス輸入量は前年比32.3%減となった。
そして、2023年1-9月期のロシア産天然ガスの輸入量は、前年同期比60.3%減の20.6bcmとなり、前年(51.9bcm)から一段と減少した。
こうしてみると、EUの天然ガスの脱ロシア化は順調に進捗しているように評価できるが、一方で、液化天然ガス(LNG)だけに絞って動きを確認すると、こうした動きとは対極的な様相が窺い知れる。