国際政治の力学に変化を及ぼしかねないハマス・イスラエル紛争への対応で、苦悩しているとみられるのがロシアのプーチン大統領だ。もともと同国は両者との関係は良好で、国内イスラム勢力の存在などから一方に与することは難しい。隣国ウクライナとの戦いを継続する中、プーチン大統領は今後どう動くのか。今回は中東情勢に対するロシアのスタンスの背後にある事情を解説します。
(宇山 卓栄:著作家)
かつて「テロリストは便所でぶち殺す」と発言したプーチン大統領だが…
ロシアのプーチン大統領はハマス・イスラエル紛争への対応に苦慮しているようです。
ロシアは反米という立場から、ハマスやハマスを支援するイランなどと連携を強めたいとの思惑がありますが、一方で、イスラエルとは敵対しているわけではなく、盟友関係にあります。イスラエルの背後にアメリカがいるとはいえ、関係は良好です。
ロシアとイスラエルが盟友関係にある理由は主に2点あります。第一に、これまで、ロシアとイスラエルは「テロとの戦い」で連携してきたことです。
1999年、当時首相だったプーチン氏は、イスラム教徒であるチェチェン人との戦いで、彼らをテロリストと認定した上で、「便所にいても捕まえて、やつらをぶち殺してやる」と発言しました。この発言は世界中で報道され、物議を醸す一方、イスラエル人には歓迎されたのです。
かつて、パレスチナの過激派組織がサベナ航空572便ハイジャック事件(1972年)を起こしました。この時、イスラエルの精鋭特殊部隊が機内に突入してから、トイレに立てこもっていたテロリストをトイレのドア越しに射殺しました。
プーチン大統領の「テロリストは便所でぶち殺す」の発言はイスラエル人に、ハイジャック事件のことを強く想起させて、共感を呼んだのです。以来、ロシアとイスラエルは対テロで盟友となりました。イスラエルはロシアのウクライナ軍事侵攻に対しても、ロシアに対する経済制裁には参加していません。
両者が盟友関係にあることの理由の第二に、旧ソビエトから移住したロシア系ユダヤ人(ウクライナ系も含む)がイスラエルにはたくさんいることが挙げられます。テルアビブの街には、ロシア語表記の看板が目立ちます。