10月17日には、ハマスが実効支配するパレスチナ自治区ガザの病院で大規模な爆発があり、多数の死傷者が発生した(写真提供:Mohamed Masri/Middle East Images/Abaca/アフロ)10月17日には、ハマスが実効支配するパレスチナ自治区ガザの病院で大規模な爆発があり、多数の死傷者が発生した(写真提供:Mohamed Masri/Middle East Images/Abaca/アフロ)

パレスチナのイスラム組織ハマスが10月7日、ロケット弾や戦闘員の侵入によってイスラエルへの大規模な攻撃を仕掛けました。イスラエルは報復を行い、以降、双方に多くの犠牲者を出す軍事衝突に発展しています。新たな危機に直面した中東について、日本では「アラブ人の住む地域」と思われがちですが、実際には民族的な相違があり、対立の遠因にもなっています。今回は「民族」という補助線を引きながら、中東情勢を解説します。

(宇山 卓栄:著作家)

民族の系譜が異なるアラブ人とイラン人

 今後の焦点は、イランが介入するかどうかとなっており、各国の思惑が錯綜する危機的な状況に直面しています。イランはこれまでも公然とハマスを支援してきました。弱小のハマスが軍事強国のイスラエルを攻撃したのは、イランの後ろ盾があるからこそです。

 一般的に日本では、パレスチナ人をはじめ、中東というと「アラブ人たちの住む地域」というイメージがあるかと思います。しかし、イランはアラブ人による国家ではありません。イラン人の多くはアラブ人らセム系民族と異なるインド・ヨーロッパ系(アーリア系)民族です。

 イランの隣国人イラク人はセム系アラブ人が多数派です。日本人にとって、イラン人とイラク人を容貌で区別するのは難しく、同じに見えるかもしれませんが、両者は民族の系列が異なります。

 しかし、人種というカテゴリーにおいては、イラン人とイラク人は同じです。両者は共にコーカソイドです。このコーカソイドというカテゴリーの中に、ヨーロッパ人、インド人、イラン人、アラブ人などが入ります。

「アラブ人は有色人種でアジア人に近い」などと言われることがありますが、アジア人は人種区分では、モンゴロイドであり、コーカソイドのアラブ人とは異なります。人種的には、アラブ人はヨーロッパ白人に近いと言えます。

 インド人は「黒い白人」と言われることがあります。この形容はある意味で真実を表しています。肌の色が白いか黒いかだけでは、人種を分類することはできません。インド人はヨーロッパ人などと同じコーカソイド人種に分類され、ヨーロッパ人と遺伝子上の同質性や近似性を持っています。