- ハマス・イスラエル紛争の激化が世界の金融システムに与える影響に警戒感が高まっている。JPモルガン・チェースのダイモンCEOは「過去数十年で最も危険な時期」と警鐘を鳴らす。
- 中東情勢の緊迫で原油価格100ドル超えが現実味を帯び、世界的なリセッションが起きる懸念がある。さらなるインフレと利上げのリスクが高まっている。
- すでに米国の長期国債の急落が銀行経営を圧迫する事態となっている。中堅・中小の銀行が大量に破綻するようなリーマン・ショックの悪夢が頭をよぎる。
(藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー)
米金融大手JPモルガン・チェースのダイモンCEOは10月13日、「世界は過去数十年で最も危険な時期を迎えているのかもしれない」と警鐘を発した。ダイモンCEOだけではない。世界の金融関係者の間で「中東地域で紛争が拡大すれば、世界的なリセッション(景気後退)となる」との危機感が生まれている*1。
*1:世界の金融市場、一段のボラティリティー上昇に身構え-中東緊迫化で(10月16日付、ブルームバーグ)
ダイモン氏の念頭にあるのはインフレ高進とそれに伴う金利上昇のリスクだろう。それにしても、なぜここまで深刻な見方を示したのだろうか。
10月7日に始まったイスラム組織ハマスとイスラエルの戦いは収束するどころか、今後周辺地域を巻き込んだ形で拡大することが予測されている。
大油田地帯を擁する中東地域で紛争が起きたことで、原油価格は一時1バレル=80ドル台半ばまで上昇した。その後は世界の原油供給に支障が生じていないことから、落ち着きを取り戻している。
だが、市場では「今後、イランが紛争に介入し、同国からの原油生産が減少することにより、原油価格がさらに上昇する」との観測が出ている。
イランの原油生産はこのところ好調だ。9月の原油生産量は日量314万バレルとなり、2018年以来の高水準となっている。イランとの関係悪化を望まない米国政府が同国の制裁破りの行動を黙認しているとの見方があるが、今回の紛争を契機に米国政府が制裁強化にかじを切れば、イランの原油生産にとって足かせとなる。