- イスラム組織ハマスのイスラエルへの大規模攻撃を受けて、米WTI原油先物価格は9日、前週末比3.59ドル高の1バレル=86.38ドルで取引を終了した。
- 前週は原油需要の減少が嫌気されて急落していたが、中東地域の地政学リスクが意識されてトレンドが反転した。
- 紛争地域に主だった油田はないが、イランの動向がリスクだ。イランとサウジアラビアとの関係が悪化すれば、サウジの原油施設の安全性に関する懸念が浮上しかねない。
(藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー)
パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスが10月7日、イスラエルへの大規模攻撃を開始した。これに対し、イスラエル軍はガザに激しい空爆を実施しており、9日時点で双方の死者が既に1500人を超えたとの報道がある。
トルコ政府が双方の間を仲介する意欲を示している。だが、「我々は戦争状態にある」と宣言したイスラエルのネタニエフ首相は予備役30万人を招集する決定を行うなど、戦闘激化への懸念が高まっている。
さらに、紛争が周辺国を巻き込んだ形で拡大する恐れが生じている。
イスラエルにとって最大の同盟国である米国のブリンケン国務長官は8日、「(ハマスによるイスラエルへの攻撃について)イスラエルとサウジアラビアの関係正常化に向けた動きを阻止する狙いがあった可能性がある」との見方を示した。その上で、ハマスとイランの長年にわたる関係に言及している*1。
*1:ハマス、イスラエルとサウジの正常化阻止が狙いも=米国務長官(10月8日付、ロイター)
イランのライシ大統領は10月1日、「イスラム世界のいかなる政府でも、シオニスト体制(イスラエル)との関係正常化は反動的であり、後ろ向きの動きだ」と批判したが、サウジアラビアとイスラエルが米国主導で国交正常化に向けて接近している現状を憂慮した発言だとみなされている*2。
*2:対イスラエル正常化を批判 接近のサウジ念頭―イラン大統領(10月2日付、時事通信)
ブリンケン氏は「攻撃の背後にイランがいることを示す証拠は現時点で確認していない」と述べたが、米ウォールストリート・ジャーナルは8日「イランが数週間にわたり、イスラエルへの攻撃計画を支援していた」と報じている*3。イラン外務省は9日、ハマスのイスラエル攻撃への関与を否定したが、米国で「イラン憎し」の論調が高まる可能性は排除できないだろう。
*3:Iran Helped Plot Attack on Israel Over Several Weeks(10月8日付、ウォールストリート・ジャーナル)