ヒト・モノ・カネを軍事部門に一段と投入し始めたロシア・プーチン首相(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
  • 秋の徴兵で13万人を動員するなど、ロシアは軍事部門に割り当てるヒト・モノ・カネの量を一段と増やしている。
  • 平時の経済活動に必要な民生品の生産減は中国からの貿易で補っているが、軍事費が膨張する中でどこまで持続可能だろうか。
  • 民生品の生産に必要な生産要素を軍需品の生産に充てざるを得ないロシアは統制経済への道を歩んでいる。

​(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)

 ウクライナとの戦争の膠着を受けて、ロシアは軍事部門に割り当てるヒト・モノ・カネの量を一段と増やしている。

 まずヒトに関しては、今年の秋の徴兵で前年比1万人増となる13万人を動員することになった。ロシア政府は2026年までに、軍の兵力を現在から3割増となる150万人まで引き上げることを計画している。来年からは、徴兵の対象年齢の上限が現行の27歳から30歳へと3歳引き上げられる。

部分動員令で召集された予備役(写真:ロイター/アフロ)

 こうした徴兵強化の結果、ロシアでは人手不足が深刻化すると予想される。ロシアの失業率(図表1)はすでに歴史的な低水準だが、これは景気の堅調を反映した現象ではなく、若者の徴兵や国外逃亡に伴い人手不足が慢性化したことを反映したものだ。

【図表1 ロシアの失業率】

(出所)ロシア統計局

 ロシア政府による徴兵の強化は人手不足に拍車をかける。労働供給がさらに減少すれば、労働需要が減退しない限り、需給は引き締まって完全雇用の状態になる。ただ、それで実現した完全雇用は民需がけん引する健全な経済成長の成果ではなく、慢性的な人手不足は供給(生産)の制約につながる。

 もちろん、政府が軍事活動を優先する以上、企業は軍需品の生産を優先せざるを得ない。つまりモノ(完成品)の生産に必要なヒトやモノ(原材料や半製品)、そしてカネの投入が軍事活動に必要なモノ(軍需品)の生産に傾斜することになる。

 そうなると、平時の活動に必要なモノ(民生品)の生産が圧迫され、モノ不足が進むことになる。

 モノ不足の現状は、中国とロシアの二国間貿易収支からも透けて見える。