- イタリアが「一帯一路」から離脱する可能性を示唆し始めた。
- 中国との関係深化を重視しての参加だったが、これまで期待したような経済的果実を得られていないことを受けての判断である。
- ただ、ドライなイタリアにとっては経済的なメリットがあるかどうかがすべて。経済的な果実を得られれば、中国と二国間で協力関係を築く可能性もある。
(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)
イタリアが改めて、中国の拡大経済圏構想である「一帯一路」から離脱する可能性を示唆している。
9月2日、アントニオ・タイヤーニ外相は、イタリア北部の街チェルノッビオで開かれた経済フォーラムに参加し、経済的な成果に乏しいことを理由に挙げ、イタリアが一帯一路からの離脱を検討中であることを、改めて強調した。
イタリアは2019年に中国と一帯一路に関する覚書を交わした。当時、イタリアの政権を担っていたのは、極左の「五つ星運動」(M5S)と極右の「同盟」(Lega)から成るジュゼッペ・コンテ連立内閣だった。
欧州連合(EU)に対し懐疑的な同政権が、中国との関係の深化を重視し、一帯一路への参加を決定したのである。
コンテ政権が期待したことは、中国に対する輸出の増加と、中国からの投資の増加だった。しかし現実には、コンテ政権の期待に反して、中国からの輸入が増えただけだった(図表1)。
具体的には、2019年から2022年の間、イタリアから中国への輸出は名目GDP(国内総生産)の0.7%から0.9%に増えたにとどまった。
【図表1 イタリアの対中貿易と中国からの投資受入状況】
他方で、イタリアの中国からの輸入は同1.8%から同3.0%に急増した。それでは直接投資(FDI)はどうかというと、累計受入額は2019年から2021年までの間に名目GDPの0.26%から0.27%と、ほとんどど増えていない。
一帯一路に参加したものの、イタリアはこれまでのところ期待したような経済的な果実を中国から得ることはできていない。
今後を見据えても、イタリアは一帯一路に加盟し続けたところで中国から経済的な果実を得られることがないと判断しているのだろう。
それでもなお、一帯一路からの離脱をすぐには決定せず、小出しにその可能性を言及するという戦術をとっているところには、イタリアは中国に対して一種の条件闘争を仕掛けている節も見て取れる。