- 消費者物価の高止まりが続くユーロ圏だが、その中でもドイツの物価上昇は伸びが続いている。
- その背景にあるのは構造的な労働力不足と、それに伴う賃金上昇圧力の高まりだ。
- ドイツの景気がさらに下振れした場合、EU経済が本格的な景気後退に陥る可能性がある。
(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)
欧州中央銀行(ECB)は7月27日に定例の政策理事会を開催し、3種類ある政策金利をそれぞれ0.25%ずつ引き上げた。利上げは9会合連続であり、主要な政策金利である主要リファイナンス・オペ金利は4.25%となり、欧州連合(EU)の統一通貨ユーロが誕生(1999年1月)した直後の2000年8月以来の高水準となった(図表1)。
【図表1 ユーロ圏の金利と物価の動向】
ECBが利上げを続ける最大の理由は、インフレ率の高さにある。
最新7月のユーロ圏の消費者物価は前年比5.3%上昇と、ピーク時の2022年10月(10.6%上昇)から伸びの鈍化が続いている。しかし、エネルギーなど変動が大きい項目を除いたコアベースでの消費者物価は、7月も前年比5.5%上昇と、高止まりの状態が続いている。
特に、EU経済の中心であるドイツでは、コア消費者物価の伸びは高止まりしている。健全財政に徹してきたドイツは、ユーロ圏の中でも長年にわたって物価を安定させてきたことで知られるが、そのドイツでさえ、依然としてコア消費者物価の伸びは高い。
背景には、構造的な労働力不足と、それに伴う賃金上昇圧力の高まりがある。
構造的な労働不足は、人口動態上のメガサイクルによるところが大きいようだ。ドイツのみならず先進各国は、2020年前後にベビーブーマー世代の労働者のリタイアを控えていた。そうした最中にパンデミックが生じ、ハイレベルなスキルやノウハウを持つベビーブーマー世代の労働者のリタイアが一気に促されたのである。
労働力不足で労働需給が引き締まったことを受けて、賃金上昇圧力が高まった。さらに各国で最低賃金が軒並み引き上げられたことも、この動きを促した。
ロシア発のエネルギーショックの影響が一巡した今でも、ドイツをはじめとするユーロ圏の各国で、依然としてコア消費者物価が高止まりしているのは、こうした理由からだ。