- 欧州経済の牽引役を果たしてきたドイツが、再び「欧州の病人」となるリスクが高まっている。
- 景気悪化は極右勢力の台頭を招き、「反移民」に加えてコストがかかる気候変動対策を槍玉にあげる声が広がっている。
- ドイツ以外の欧州各国でも極右は勢いを増しており、欧州全体で気候変動対策が後退しかねない事態になってきた。
(藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー)
欧州経済の雄であるドイツの不調が続いている。
7月28日に発表された今年第2四半期の実質国内総生産(GDP、速報値)の成長率は前期比でゼロだった。GDP成長率は昨年第4四半期に同0.4%減、今年第1四半期に同0.1%減と2四半期連続のマイナスとなり、ドイツ経済はリセッション(景気後退)入りしていた。第2四半期のGDPが3四半期ぶりにマイナス成長を回避したことでかろうじてリセッションから脱することができた。
だが、ドイツ経済の今後は楽観できない。ドイツの企業活動が低迷しているからだ。
独IFO経済研究所が7月25日に発表した7月の企業景況感指数(2015年=100)は市場予想(88.0)を下回る87.3だった。前月から1.3ポイント下がり、3カ月連続で悪化している。ドイツ経済のリセッションからの回復が容易ではないことを示している。
振り返れば1990年の再統一後のドイツは、旧東ドイツに対する巨額の支援が重荷となり、深刻な経済不況に見舞われた。当時「欧州の病人」と揶揄されたドイツだったが、ロシアからパイプラインで供給される安価な天然ガスを大量に調達することで苦境から脱することができた。
だが、ウクライナ戦争の勃発によりこの「武器」を使えなくなったドイツは、再び「欧州の病人」となってしまうリスクが生じている。ドイツはロシア産天然ガスの代替として、カタールやノルウェーなどの天然ガスを確保することに成功したが、ガス価格の高騰は避けられない状況だ。
その悪影響を最も受けているのはドイツのお家芸とされてきた化学産業だ。