ロシアの足かせとなる3つの「不都合な真実」
先の「プリゴジンの乱」のドタバタ劇は、ロシア空軍(航空宇宙防衛軍)にとって、とんだ“とばっちり”だった。
貴重な戦力のカモフKa-52「アリゲーター」など攻撃ヘリコプター7機どころか、非常に高額で十数機しかない大型機、イリューシンIl-22M空中指揮通信機1機が、民間軍事会社という名の傭兵組織「ワグネル」の反乱部隊に撃墜されたからだ。第2次大戦後の紛争史を見ても、これほどの失態は類がない。
ウクライナ侵略戦争でロシアは、「航空優勢(制空権)」の確保を甘く見ていた。「緒戦に戦闘機・攻撃機を多数繰り出し、空を押さえる」というのが現代戦の常識。大手メディアや著名な軍事評論家は、
「地上部隊の電撃戦でウクライナ全土を数週間で制圧できると確信し、空軍が出るほどでもないと甘く見ていた」
「その後ウクライナ軍はNATOから高性能なSAM(地対空ミサイル)を大量に受け取り、ハリネズミのように守りを固めたため、今さら出撃しても餌食になるだけと、ロシア空軍はむしろ冷静なのではないか」
といった見立てを披露する。大筋は全くその通りだが、これ以外にもあまり話題に上らない“不都合な真実”がいくつかあると見る専門家も少なくない。特に注目すべきは、「戦闘機の出撃可能率(可動率)」「周辺国との軍事バランス」「バックドアの脅威」の3点である。
イギリスのシンクタンク、国防戦略研究所が毎年まとめている『ミリタリー・バランス(2023年版)』によれば、現在ロシア軍(空軍と海軍)の現役戦闘機・攻撃機の数は約1000機ある。旧ソ連末期には8000機超を誇ったが、現状でも世界トップクラスだ。
主な戦闘機、戦闘攻撃機の機種は以下の通りだ。
・スホーイSu-27/約120機
・スホーイSu-30/約120機
・スホーイSu-33/約20機(艦上機)
・スホーイSu-34/約110機(戦闘爆撃機)
・スホーイSu-35/約100機
(以上はSu-27がベースの進化系)
・ミグMiG-29戦闘機/約110 機
・ミグMiG-31戦闘機/約130機
(攻撃機)
・スホーイSu-24/約100機
・スホーイSu-25/約190機
このほかに大量の旧式機を1000機単位で保管すると言われている。だが戦車や大砲といった陸上兵器なら、無理矢理「蔵出し」しても多少戦力にはなるが、戦闘機はそうはいかない。今や「空飛ぶコンピューター」と呼ばれ、搭載するIT機器の優劣でほぼ勝負が決まる世界だからだ。
1960年代以前の「第1、第2世代」戦闘機などは論外で、「射的の的」と化すのがオチである。むろん役立たずの旧式機のパイロット育成に手間・暇・コストを費やすほどロシアも愚かではなかろう。
1960年代に出現の「第3世代」でも、かなりアップデートされて何とか通用するレベルで、現実的には1970年代以降に出現した「第4世代」より後の世代の機種が主力となる。アメリカなら今話題のF-16や航空自衛隊の主力戦闘機F-15、ロシアならSu-27、MiG-29などが相当し、先に掲げたロシアの戦闘機も全て第4世代以降である。ちなみにアメリカのステルス戦闘機F-22、F-35(日本の航空自衛隊も導入中)は「第5世代」と呼ばれる。