米空軍のF-16(写真:米空軍サイトより)

ゼレンスキー氏が垣間見た米国の「リスク」

 ウクライナのゼレンスキー大統領は6月10日、ついに「反転攻勢が進行中だ」と話し、大規模反攻作戦の火ぶたが切られたことを正式に認めた。

 ウクライナ戦争は新たな局面に突入したが、軍事専門家の間では「反攻作戦を行う地上部隊をガードしつつ、ロシア侵略軍を空爆で叩きのめすため、西側諸国によるウクライナへの戦闘機供与スケジュールを早めるのではないか」との観測も出ている。

 5月に開催されたG7広島サミットでは、急きょ出席を決め訪日したゼレンスキー氏が、米製のF-16戦闘機の供与にOKを出さないアメリカのバイデン大統領に直談判。「アメリカは直接提供しない」としながらも、他国が持つ機体の供与に関して、ついにバイデン氏は首を縦に振った。

 兵器を他国に譲る際は製造国の許可が必須だ。無視すれば信頼を失い、今後の武器調達の道は絶たれる。同機を第三国に移転する際はアメリカの承諾がどうしても必要だった。

 F-16は第2次大戦後の西側戦闘機の中でも屈指の生産数を誇る傑作機で、約30カ国・地域で採用され5000機近く製造されている。開発国のアメリカ(約900機)を筆頭に、ギリシャ、ベルギー、オランダ、デンマークなどNATO(北大西洋条約機構)加盟9カ国で約1600機も保有し、提供できる余力、つまり「在庫」は西側戦闘機の中でもトップだ。

 エンジンは1基(単発)で、全長約15m、最大離陸重量(燃料や爆弾・ミサイルを限界まで積んだ状態)約19トン、爆弾搭載量約7.7トン、最大速度マッハ2という性能を持つ。

F-16(写真:ロイター/アフロ)

 F-16の初飛行は1970年代半ばだが、小型軽量、低価格を追求し、使い勝手がよく低速・低高度の飛行性能も優れているため、地上攻撃力を大幅強化し、対空、対地、対艦、偵察などをこなすマルチロール(多用途)戦闘機に“肉体改造”された。頻繁に改良がなされ、最新バージョンでは最大重量30トンを超え、もはや小型軽量機ではない。

 また、実戦経験が豊富で部品調達や保守、訓練などロジスティクス(兵站)/サプライチェーンも充実するなど、いいことずくめでパフォーマンスが高い。

 F-16の供与は、ロシアによる侵略戦争の勃発以来「1日でも早く」と叫び続けたゼレンスキー氏の“粘り腰”で実現しそうな情勢だ。だが一方で「ロシアのプーチン大統領が過剰反応し、核のボタンを押すのでは」と、戦争のエスカレートを心配し、決心までに1年以上もかかったバイデン政権の優柔不断が、実は大きなリスクを孕んでいることも痛感したに違いない。

 現に専門家の間では「F-16だけの一本やりはかえって危険」との声が出ている。仮にアメリカの政権交代で外交方針が突然変わり、ウクライナへの戦闘機支援が大幅に絞られれば、わずかに残る旧ソ連製の“老朽機”しか稼働できる戦闘機がないウクライナ空軍は、まさにお手上げの状態だ。

 また、今後米ロがこの戦争の「落としどころ」について密談し、ウクライナ不在のまま「手打ち」をし、F-16支援を手控える可能性も捨てきれない。大国同士の密約で中小国が犠牲になる事例は歴史上数多い。