ウクライナの“戦闘機市場”に橋頭堡を築きたいフランス

 こうした事情を考えると、ウクライナが戦争の長期化や将来の国防戦略、空軍の打たれ強さ(レジリエンス)も視野に置いて、F-16以外の機体、特に製造国の違う戦闘機の導入を模索しているとしても不思議ではない。

 そこで、具体的に有力な候補となりそうなのが、以下の4機種である。いずれも装備を変更することで空対空戦闘、対地攻撃、偵察など1機で複数の用途に対応できるマルチロール戦闘機だ。

・F/A-18(米)
・ミラージュ2000(仏)
・ユーロファイター・タイフーン(英独伊西)
・サーブ39グリペン(スウェーデン)

【F/A-18】

 空母に載せる艦上/マルチロール戦闘機として1970年代後半に米ボーイング社が開発。エンジンは2基(双発)で、全長約18m、最大離陸重量約23トン、最大速度マッハ1.8、爆弾搭載量約6.2トンだが、最新バージョンの「スーパー・ホーネット」は同約30トン超、爆弾搭載量は8トンに達する大型機である。

豪州空軍のF/A-18(写真:米空軍サイトより)

 本家アメリカ(海軍・海兵隊計約900機)や豪州、カナダ、フィンランド、スペインの“ウクライナ支援連合軍”参加の5カ国だけでも優に1000機を超え、在庫の余力もある。世界8カ国で約1500機が使われている。

 ボーイングの戦闘機部門は、米空軍の戦闘機受注競争で米ロッキード・マーチンのF-35ステルス戦闘機に敗れてから萎みがち。一部では撤退とも噂されているため、今回の戦争でアピールし、起死回生を図りたい思惑があるのかもしれない。

 米海軍・海兵隊は、現在最新のF-35への更新を進め、既存のF/A-18は続々と「お蔵入り」の運命だ。近い将来「我々も直接戦闘機をウクライナに送る」とアメリカが宣言した際、この余剰分を回す可能性も低くない。

 似た理由で同機が余剰の豪州やカナダは、ひと足先にウクライナへの譲渡を検討し始めていると報じられた。

 一方、「この戦争では陸・空軍の活躍が目立ち海軍の出番が少ない。世間の注目を集めるF-16もいわば米空軍の戦闘機で、米海軍としてはF/A-18で存在感をアピールしたい。ワシントンやペンタゴン(米国防総省)に働きかけを行っている」との見方もある。

【ミラージュ2000】

 仏製ミラージュ2000の初飛行は1970年代後半で、フランス伝統の三角形の主翼(デルタ翼)がトレードマークの単発機。全長約14m、最大離陸重量約17トンの小型軽量機で、爆弾搭載量は約6.6トン。当初は防空任務を受け持つ迎撃機を目指すが、大幅な改造で爆撃なども得意とするマルチロール機に変貌を遂げた。

仏空軍のミラージュ2000(写真:米空軍サイトより)

 フランスのマクロン大統領は2023年5月半ば「パイロットの訓練の扉を開いており、すぐにでも始められる」と公言。躊躇するバイデン氏の背中を押す格好になった。

 同国はミラージュなど国産戦闘機にこだわるお国柄で輸出も盛んに行っている。F-16は保有していないので、パイロットの訓練と言っても基礎的な部分だけに徹して、F-16の実機やシミュレーターが必須な専門的な教育はほかのF-16保有国に任せる、という計画なのだろうか。

 このため一部では「F-16向けパイロットの基礎訓練の支援を“呼び水”に、ミラージュ2000の訓練も並行して行い、最終的には同機のウクライナ供与へとつなげたいのでは」との憶測もある。

 米英主導の「アングロ・サクソン同盟」にライバル意識を抱き、ことあるごとに独自路線を主張するのがフランスだ。だがウクライナへの武器支援では、米英独に比べて存在感が薄く、戦闘機でも米製のF-16にスポットライトが当たるのを見てきっと悔しいはず。

 仏製戦闘機の存在感を強めて、さらなる受注増につなげたい。少なくともウクライナの“戦闘機市場”に橋頭保を築けば、将来仏製戦闘機を多数売り込める、と算盤をはじいてもおかしくはないだろう。

 ミラージュ2000は約600機生産され2000年代後半に製造は終了。本国のほか中東各国、インドなど計9カ国・地域で採用されている。ウクライナ支援となればフランスの約100機とギリシャの約40機が想定されるが、フランスはこのほかに約200機の予備機を有するとも言われ、この余剰分を切り崩す可能性もある。