Ultra Low Emission Zone (ULEZ) を示すロンドンの看板。年式の古く、排ガスに含まれる有害物質の量が多い車両は市内への進入が有料になる(写真:ロイター/アフロ)
  • 7月20日に首都ロンドン郊外の3選挙区で行われた下院の補欠選挙。与党保守党が全敗するとみられていたが、一つの選挙区で辛勝した。
  • 保守党の勝利を可能にした要因は、行きすぎた環境政策に対する住民の不満。高インフレに悩む市民が環境対策に伴う追加負担を嫌忌した形だ。
  • 英国では、任期満了に伴う総選挙が2025年1月までに実施される。現状では最大野党の労働党の支持が集まっているが、物価対策よりも環境対策を重視する姿勢は有権者の支持が得られるだろうか。

(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)

 環境先進国の一つである英国で、環境対策の進め方を見直す動きが徐々に広がっている。7月20日に首都ロンドン郊外の3選挙区で行われた下院の補欠選挙の結果は、その端的な例である。

 この選挙では、リシ・スナク首相が率いる与党・保守党が2つの選挙区で大敗したが、1つの選挙区で僅差ながらも議席を維持することに成功した。

 英国では、任期満了に伴う総選挙が2025年1月までに実施される予定となっている。現在、英国の有権者の支持率は最大野党である労働党に集まっており、次回の総選挙で保守党が勝利する可能性は低いと言わざるを得ない。

 今回のロンドン郊外での補欠選挙でも、大方の見方では、保守党はすべての選挙区で敗北すると予想されていた。

 ところが、ふたを開けてみると、わずか495票差で保守党が勝利し、議席を維持したのである。

 保守党が議席を維持した「アックスブリッジ及びサウス・ライスリップ」選挙区は、もともとは政治家を引退したボリス・ジョンソン元首相の地盤として知られる。元首相の数々の醜聞もあり、保守党には強い逆風が吹いた選挙区だった。

 そうした不利な環境にもかかわらず、保守党の辛勝を可能にした要因は、行き過ぎた環境対策に対する住民の不満にあったようだ。

 労働党出身であるロンドンのサディク・カーン市長が進めている肝いりの環境対策に対して、ロンドン郊外の選挙区には強い不満を持つ有権者が少なからず存在した。その不満票が保守党に流れたわけだ。

 有権者が不満を募らせた最大の要因は、ロンドンの大気汚染対策にあった。