景気が減速しているドイツ。写真はベルリンの街並み(Michael Kuenne/PRESSCOV via ZUMA Press Wire/共同通信イメージズ)
  • ユーロ圏の経済・物価情勢を占う指標が相次いで発表された。ユーロ圏7月消費者物価指数(HICP、速報値)と、ユーロ圏4~6月期実質GDP(速報値)である。
  • HICPは減速傾向が続いているが、食品などの物価は依然として前年比2ケタ増。コア指数も横ばいで高止まりしている。実質GDPは持ち直しているが、実体経済の強さには疑問が残る。
  • 中でも、ロシア依存度の高かったドイツの失速感は強く、景気後退を強いられる可能性が高い。その中で、ECB(欧州中央銀行)は利上げ路線をどこまで貫けるか。9月会合での利上げ見送りも十分にある。

(唐鎌 大輔:みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト)

コア指数の加速収まらず

 ユーロ圏の経済・物価情勢を占う指標が7月31日に相次いで発表された。

 まず、ユーロ圏7月消費者物価指数(HICP、速報値)は前年比+5.3%(以下特に明記しない限り前年比)まで鈍化し、ピークだった昨年10月(+10.6%)からちょうど伸び幅が半減した(図表①)。

【図表①】


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 前月の+5.5%から減速傾向が継続しているが、引き続きエネルギー価格の下落を受けた動きだ。エネルギー価格の下げ幅は前月の▲5.6%から今月は▲6.1%へと拡大しており、全体に対する寄与度も▲0.6%ポイントと相応に大きい(マイナス寄与はエネルギーだけ)。

 域内の生活水準を大きく切り下げていると言われてきた食品、アルコール・タバコも+12.4%から+11.3%へ顕著に減速しているが、食品などの物価が依然として前年比2ケタも上昇している。これは、域内の消費・投資意欲を削ぐ一因になっていると考えられる(全体に対する寄与度は+2.2%ポイント)。

 一方、食品、アルコール・タバコを除くコア指数は+5.5%と前月比横ばいで減速がみられていない。これは人件費にけん引されるサービスが+5.4%から+5.6%へ加速していることに起因しており、全体に対して+2.4%ポイントのプラス寄与となっている。

 前月同様、昨夏のドイツで旅行支援を兼ねた公共交通料金の引き下げが行われていたことの反動が効いているようだが、それですべてが説明できるのかは不透明である。

 なお、7月はヘッドラインとコア指数の伸び率が2021年2月以来、約2年半ぶりに逆転している。これをインフレ減速の象徴的な動きとして取りざたする向きは多いが、実態としては「雇用・賃金環境の逼迫が全く収まっていない(だからサービス物価主導でコア指数が伸びる)」という状況も意味しているはずであり、楽観できるものではない。