ウクライナ軍はこの後、どのような作戦を考えているのか(写真はNATOによる対戦車訓練、9月7日ラトビアで、米陸軍のサイトより)

1.突破拡大するウクライナ地上軍

 ウクライナ軍とロシア軍は、ザポリージャ州西部に主要戦力を集中させて戦っている。この地での勝敗により、戦争の勝敗が見えてきそうな天王山の戦いだ。

 ウクライナ南部ザポリージャ州の西部で、ウクライナ地上軍(陸軍に海軍歩兵が加わっているので地上軍の名称を使用)は、ロボティネからトクマクまでの目標線(オリヒウ攻撃軸)に向けて突破口を形成し、それを拡大して、南下しつつある。

 一方、ロシア地上軍は南下するウクライナ軍の南下を止めようと必死で、両軍は死闘を繰り広げている。

 この地の戦いでは、ウクライナ軍の後方連絡線は後方にあるが、ロシア軍のそれは南にアゾフ海があるために主に東にある。

 そのため、ザポリージャ州防御のロシア軍は、この地で敗北すれば、東からの後方連絡線を遮断されるという脅威を受けている。

 ザポリージャ州西部のオリヒウ攻撃軸では、両軍の戦闘力の先端がぶつかり合っているのだ。

 ロシア軍が占拠する地域は、南北に幅約110キロあるが、防御陣地はその北部の約30キロに集中している。

 その約30キロの間に、ロシア軍は前進陣地、第1・第2・第3の防御陣地を、地域によっては第2と第3の間にも陣地線を構築した。

 さらに、市街地を利用した防御も実施している。

図1:オリヒウ攻撃軸のウクライナ軍の進出範囲とロシア軍防御線とそれまでの距離

青色部分がウクライナ軍の奪回範囲、橙色部分がロシア軍の占拠範囲。出典:米国戦争研究所リポート(2023年9月26日)地図に筆者が書き入れたもの(以下同じ)

(図が正しく表示されない場合にはオリジナルサイトでお読みください)

 ウクライナ軍はこれまで、前進陣地や第1防御線を破壊してきた。ベルボベ正面では第2防御線を突破して進んでいる。

 ロシア軍はこれらの防御線の戦闘に最も力を入れてきた。ウクライナ軍も苦戦を強いられてきたが、10~12キロほど深く進軍できている。

 ベルボベ正面は、応急陣地の2.5防御線と第3防御線がある。あと、十数キロの戦だ。ロシア軍の戦力は減少しているし、もともと配備されている部隊は2個旅団だけだ。

 ロボティネ正面は、まだ第2防御線と第3防御線が残っている。したがって、まだまだ厳しい戦いが続く。

 これらの防御線を打ち破れば、その南にはトクマクなどの都市を守るように陣地が構築されているが、主要な都市以外はウクライナ軍を阻止できるような陣地は作られていない。

 このため、第3防御線を突破されたときのロシア軍は、ウクライナ軍の前進を止めるためには応急陣地を構築するか、機動打撃により攻撃するほかはない。

 南部戦線における地上戦を、第3防御線までの戦いとこれ以降のアゾフ海までの戦いに区分して、今後の戦闘予想について考察する。