- ヨーロッパの主要都市で反イスラエルデモが多発するなど、緊迫化するパレスチナ情勢を受けて、ヨーロッパでは急速に社会不安が広がっている。
- その影響は経済にも現れており、消費マインドの減退が個人消費をさらに引き下げる見込みだ。
- これまでの寛容な移民政策の揺り戻しで排外主義的なムードも高まっており、来年6月の欧州議会選では反EU色の強い会派が勢いを増すかもしれない。
(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)
パレスチナ情勢の緊迫化を受けて、ヨーロッパ各国では急速に社会不安が高まっている。ヨーロッパ各国はイスラエルを支持する立場をとるが、ヨーロッパに居住するイスラム教徒を中心に、イスラエルによるガザ地区への攻撃に反対する動きも強まっており、ヨーロッパの各主要都市では反イスラエルデモが多発する事態となっている。
歴史的経緯から、ヨーロッパの中でも親イスラエルの立場を明確にしている英国では、ロンドンやマンチェスター、ブリストルなどの都市で大規模な反イスラエルデモが行われた。ロンドンでは10月14日、市内中心部にあるBBC本社からダウニング街の首相官邸までの通りをデモ隊が行進。ロンドン警視庁が7人の参加者を逮捕した。
一方で、ロンドンで大規模なデモが行われる前日の13日、ロンドン警視庁のローレンス・テイラー警視監補が記者会見で明らかにしたところによると、ユダヤ系住民に対する差別の事案も急増しているようだ。これはガザ地区を攻撃しているイスラエルがユダヤ教徒の国家であるためだが、いずれにせよロンドンの社会は急速に不安定化している。
こうした状況はヨーロッパの他の都市でも生じている。
例えば、ドイツの首都ベルリンでは、15日に反イスラエルを叫ぶ3500人規模のデモが行われた。同国の場合も、ナチスドイツ時代のユダヤ人虐殺という歴史的経緯から反イスラエル運動に敏感であり、親パレスチナのデモは禁止されたが、それにもかかわらず、多くの人がデモに参加した。
またドイツ西部の都市ボンでは、シナゴーグ(ユダヤ教徒の会堂)でイスラエルの国旗が燃やされるといった事件まで発生した。
さらにフランスでも、13日に北部の都市アラスで高校の教師がロシアのチェチェン共和国出身のイスラム教徒に殺害されたことを受けて、国内のテロ警戒レベルが2020年10月以来となる最高段階まで引き上げられた。
フランスは首都パリを中心に、ヨーロッパで最も大きなユダヤ教徒とイスラム教徒のコミュニティを抱える国である。今回のパレスチナ情勢の緊迫化を受けて、フランスは他のヨーロッパの国以上に社会が不安定化しており、政府は全土に兵士を配置して警戒に当たらせるなど危機感を強めている。