- テクノロジーの進化によってフェイク画像の生成は容易になった。今回のパレスチナ・イスラエル紛争でもフェイク画像がSNSにあふれている。
- AIによって生成された画像や映像を検知する技術も登場しているが、今度は本当の画像や映像がフェイクと認識される「偽陽性」の問題も浮上する。
- 生成AIが進化し、さらに普及しつつあるいま、事実を把握する作業はどんどん難しくなろうとしている。
(小林 啓倫:経営コンサルタント)
2004年のアニメが予言した未来
士郎正宗原作の『攻殻機動隊』というSF作品がある。オリジナルは1995年に発表された漫画版で、その後映画やアニメシリーズ、ゲームなどさまざまな媒体へと展開されてきた。
その攻殻機動隊の2回目のアニメシリーズに、2004年から放送が開始された『攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG』という作品があるのだが、その第25話(2005年1月初回放送)に興味深いセリフが登場する。
ネタバレを避けるために詳しく解説することは避けるが、物語中、ある複数の勢力の間で戦争状態が発生する。主人公たちはこれを停止させようとするのだがうまくいかない。そのとき、主人公たちをサポートするAI「タチコマ」たち(複数存在する)が、「世論を味方につけるためにとある映像をネットに流してはどうか?」という相談をする。すると、タチコマの1台がこんなことを言うのだ。
意味無いよ。映像に証拠能力ってもう存在しないし、どうせ出どころの分からないタイムリーな映像として関係ない一般大衆を楽しませるだけだよ。
作品の舞台は2032年の日本で、AIやロボット、サイボーグなどが普通に社会に普及しているという設定だ。映像処理技術も発達しており、リアルタイムで映像の中身を改変することすらできる。そのため自分たちに有利な映像があり、それを皆に示したとしても、どうせ偽造されたものと捉えられて信じてもらえないだろうとタチコマたちは言っているのだ。
この作品が放送された当時、もちろんCGはさまざまな映像コンテンツで使用されていたものの、偽の映像を誰もが簡単に制作できる技術など存在していなかった。しかしご存知の通り、その後AI技術の発達によって、いまや思い通りの画像や映像を瞬時に生成することができる世界になりつつある。
「フェイク」あるいは「フェイクニュース」という言葉は、本当に偽の情報を否定するために使われる一方で、事実と思われるものまでも「それは偽造だ」とねじ曲げて否定する際にも用いられる言葉となった。
そしていま、残念ながら本当の戦場で、このセリフの正しさが改めて実証されようとしている。舞台となっているのは、2023年10月に発生したパレスチナとイスラエル間の紛争である。