米露主導で進む停戦協議にウクライナのゼレンスキー大統領は危機感を強めている(写真:Abaca/アフロ)

原油価格がじわりと下落している。ウクライナ停戦が近づいているとの観測が広がるなか、原油価格の下押し圧力を強めているのは地政学リスクの緩和より、むしろトランプ関税の行方だ。インフレが再燃し原油需要が減退するのではとの懸念が強まってきた。

(藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー)

 米WTI原油先物価格(原油価格)は今週に入り、1バレル=68ドルから71ドルの間で推移している。水準は先週と比べて2ドル低下している。市場の需給緩和が嫌気され、原油価格は2カ月ぶりの安値を付けた。

 まず、いつものように世界の原油市場の需給を巡る動きを確認しておきたい。

 ロシア南部グラスノダール地域にある原油輸出パイプラインが2月17日にドローン攻撃を受けたが、その後、原油供給に支障が生じていないことがわかった。

 この攻撃で「カザフスタンからの原油輸出(日量約100万バレル)が3~4割減る」との見方が広がっていたが、杞憂だったことで供給懸念が和らいだ。

 ロシアの石油関連施設に対するウクライナ軍のドローン攻撃が続いている。

 23日から24日にかけてもロシア西部のリャザニ製油所(精製量はロシア全体の5%)が攻撃された。ロシア側の被害は不明だが、「ウクライナの一連の攻撃で石油精製能力の10%以上が失われた」との指摘がある。だが、市場はこれに反応していない。

 ロシアがウクライナに侵攻してから3年が経過した。

 欧米は経済制裁でロシアの戦争継続能力を削ごうとしたが、失敗に終わった感が強い。国家予算の約3割を占める原油・天然ガス収入を減らすことが制裁の要だったが、インドと中国が割安となったロシア産原油を大量に購入したため、ロシア経済に深刻な打撃を与えることができないでいる。

 一方、「ウクライナ停戦が近づいている」との観測が広がっている。