
トランプ関税が米国経済のインフレを加速させかねないという懸念が強まっている。10年物米国債利回りが高止まりすれば、商業不動産や非公開企業向けの高リスク融資で債務不履行(デフォルト)が多発し、金融危機の引き金を引くとの憶測が流れ始めている。
(藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー)
トランプ大統領の関税攻勢が止まらない。
トランプ氏は2月13日、貿易相手国が高い関税を課している場合、その国からの輸入品に対する関税を同じ水準に引き上げる「相互関税」の導入を検討するよう、商務長官や米通商代表に対して指示する文書に署名した。
トランプ氏は翌14日にも「輸入自動車への関税を4月2日頃に公表する」と述べた。 さらに、半導体や医薬品への追加関税の発動も視野に入れている。
トランプ氏の関税政策は貿易相手国にとって脅威であり、世界的な貿易戦争に発展するリスクをはらんでいるが、米国経済への悪影響も見逃せない。
すでに「一人勝ち」を続けてきた米国経済に変調の兆しが見えている。
1月の消費者物価指数(CPI)は前年に比べて3%上昇し、2023年8月以来、約1年半ぶりの大幅な伸びを記録した。インフレ率が下がりにくくなっていることから、「連邦準備理事会(FRB)は年内に利下げできない」との見方が強まっている。
1月の小売売上高も前月比0.9%減と約2年ぶりの大幅減となった。昨年終盤まで堅調な伸びを示していた個人消費が今年に入り急減速したことが示された形だ。
米国人の多くは根強いインフレや高い借り入れコストへの対応に迫られていることから、米国の個人消費はさらに弱含む可能性があるだろう。
サマーズ元財務長官は「物価上昇圧力が再び高まる危険性がある」と警告している。1月の雇用統計で賃金が大幅に上昇するなど労働市場のタイト化の兆候があるからだ。
このような状況下で「関税インフレ」の懸念も生まれている。