マーキュロとサークルライチ

 そして2022年6月にサブカルを標榜したグループ、マーキュロが登場した。メンヘラや厨二病といった負の要素に加え、80年代に活動していた劇団「東京グランギニョル」の演目『マーキュロ』からのグループ名が物語るように、帝国主義やエログロナンセンスという、ネオ・ヴィジュアル系観を大きく差配していたアングラなサブカル要素を、アイドルに持ち込んだことは衝撃でもあった。

マーキュロ「デイストオシオン」(2022年)

 マーキュロの楽曲「自殺願書」に〈死にたいんじゃない生きたくないの〉というフレーズがある。これは人間の持つ陰の真理であるだろう。こうした独自の死生観はヴィジュアル系バンドの得意とするところでもあり、森田童子やCoccoなどの女性アーティストがアイデンティティとして、絶大な支持を得てきたものである。しかしながら、アイドルがそうしたことを歌うことは暗黙の諒解でタブーとされていた。

マーキュロ「自殺願書」(2022年)

 それまでもビジュアル面、音楽面ともにヴィジュアル系要素を持ったアイドルグループや楽曲は存在していたし、ヴィジュアル系事務所やヴィジュアル系バンドマンが手がけるアイドルもいた。しかし、ヴィジュアル系はあくまでモチーフや雰囲気要素のひとつでしかなく、あくまでアイドルはキラキラとしたものだ、という既成概念があったのである。

 そうした中で、マーキュロは“自殺”や“リストカット”といったダイレクトな表現をヴィジュアル系ロックに乗せた。楽曲制作やライブサポートなど、ヴィジュアル系畑の人間が制作に関わることで、ビジュアル面も音楽面も、アイドルにおける完全なるヴィジュアル系世界観構築を実現させたのだ。さらにマーキュロは、主宰レーベル「サークルライチ」を設立。アングラなレトロに特化しつつ、心の“叫び”をテーマにしたクララ・マグラ、そしてこれもまたアイドルシーンでは避けられてきた“エロティシズム”をコンセプトにしたベロティカを筆頭に、2025年3月現在9アーティストが所属する、一大勢力としてシーンに鎮座している。

クララ・マグラ「熱狂ラウドランド」
ベロティカ「Sugar」