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(英エコノミスト誌 2025年3月1日号)

ウクライナのウォロデミィル・ゼレンスキー大統領は訪米してドナルド・トランプ大統領と会ったものの芳しい成果は得られなかった(2月28日、写真:ロイター/アフロ)

だが、新しいルールは米国に不向きだ。

 1945年以降の世界を覆ってきた秩序の崩壊が加速している。

 2月下旬に国連で異様な光景が繰り広げられ、米国がウクライナと欧州を相手に回し、ロシアと北朝鮮の味方についた。

 ドイツでは、恐らく新首相に就任するフリードリヒ・メルツ氏が、北大西洋条約機構(NATO)は6月までに死に体になるかもしれないと警鐘を鳴らした。

 急速に近づいてきているのは、強国同士が取引をし、小国をいたぶる「力は正義」の世界だ。

 チーム・トランプは、自分たちの取引は平和をもたらす、米国は80年間タダ乗りされてきたが、今後は超大国としての地位を利益に変換していくと主張している。

 実際には、世界が今よりも危険になるうえに、米国自身も弱体化して貧しくなっていくだろう。

ドン・コルレオーネ的な外交アプローチ

 世間一般の人々は世界秩序には関心がないかもしれない。しかし、世界秩序の方は世間一般の人々に関心を持っている。

 米国はウクライナで映画『ゴッドファーザー』のドン・コルレオーネを思わせるアプローチを展開している。

 当初5000億ドルを要求していた米国側は、ウクライナの地下資源を開発する共同国営基金を設ける不透明な取引で合意した。

 米国がその見返りにウクライナの安全を保証するかは明らかでない。

 トランプ政権にはアイデアとエゴが渦巻いている。だが、そのスタッフはある1点については意見が一致している。

 1945年以降のルールや同盟関係の枠組みの下で、米国はだまされて不公正な貿易取引に引き込まれ、外国の戦争のためにお金を使ってきたというのがそれだ。

 トランプ氏は、自分なら極度に活発な取引を通じて国益をより効果的に追求できると考えている。

 獲物は領土、技術、鉱物資源などよりどりみどりだ。

 2月24日にはフランスのエマニュエル・マクロン大統領とウクライナについて会談した後、トランプ氏は「私の人生すべてがディール(取引)だ」と説明した。

 ビジネススキルを持った盟友たち、例えば(政権の中東担当特使である)スティーブ・ウィトコフ氏などは、サウジアラビアにイスラエルを承認させるとかクレムリンを国際社会に復帰させるといった目標と関連する取引ができないかと、世界各地の首都を飛び回っている。