(英エコノミスト誌 2024年9月14日号)

米国最高裁判所(Mark ThomasによるPixabayからの画像)

ドナルド・トランプの陰謀論マシンは投票日に向けた準備をすでに始めている。

 ドナルド・トランプ氏が出馬していない場合でも、米国の選挙は衝突を生むことが多い。

 米国は真の大統領制民主主義国のうち、最多得票者が権力を勝ち取るとは限らない唯一の国だ。

 投票日から連邦議会での当選認定との間にある空白も2カ月間に及び、どの国よりも長い。

 仕組みが複雑なために法的手段を使った抗議が行われやすく、それが事態をさらに複雑にする。

 こうしたことから、米国の選挙では忍耐と信頼が求められる。

 残念なことに、米国は司法に対する国民の信頼度が主要7カ国(G7)で同率の最下位、選挙が公明正大に行われているとの認識率においては単独最下位に沈んでいる。

選挙後の戦いに備えるトランプ陣営

 そして、そこに登場するのがトランプ氏だ。

 フィラデルフィアで10日に行われた討論会では、前大統領は怒り、憤慨していた。2020年の大統領選挙は盗まれたという主張を繰り返した。

 誤りであるうえに常軌を逸した主張だが、共和党支持者の70%近くはこの主張を支持すると話している。

 トランプ氏と共和党は、2度目になる選挙後の戦いに向けて準備を始めている。民主党も共和党も、相手が勝ったら米国の民主主義は脅かされると叫んでいる。

 トランプ氏個人にとっては、この選挙はさらに重い意味を持つ。負ければ刑務所に送られかねないからだ。

 選挙結果が僅差でなければ、米国は前回のようなひどい権力の移行を回避できるかもしれない。

 ますます困難に直面する米国の民主主義にとっては残念なことに、本誌エコノミストの予測では、今回の大統領選挙は今のところ、世論調査が始まってから行われたどの選挙よりも接戦になっている。

 今回はどこまで見苦しい争いになるのだろうか。実現しうる結果は3つある。

 極端なほど実現しそうにない結果、すなわちカマラ・ハリス氏とトランプ氏が大接戦を演じ、獲得選挙人数で並ぶというものから見ていこう。

 両候補が同数の選挙人を獲得した場合、大統領は連邦議会下院で、各州の代表1人がどちらかの候補に1票を投じるやり方で決められる。

 その場合、たとえハリス氏が11月5日の一般投票で勝利していても、トランプ氏が大統領になることはほぼ確実だ。

 ルールに則っているという意味では公正な選挙だが、民主党は怒り出すだろう。