(英エコノミスト誌 2024年10月19日号)

ロケットの発射台に帰ってきたスペースX「スターシップ」のブースター(10月13日、写真:ロイター/アフロ)

政治のせいで米国経済は地上に引き下ろされるか?

 世界でも群を抜く米国の創意工夫の才がここまで見事に表現された光景はほとんどないだろう。

 10月13日、スペースX製の巨大なブースター・ロケットが大気圏の端まで飛んで地球に帰ってきた。

 それも、このロケットをつい数分前に打ち上げた発射台に向かって降下し、見事にそこに収まった。

 この驚嘆すべき技術のおかげで、大型ロケットを再利用して宇宙探査を安価かつ大胆に進める道が開かれることになるかもしれない。

 しかし、このロケット打ち上げがまさに米国の進取の気性の証であるように、スペースXの創業者イーロン・マスク氏は米国政治の悪いところを余すところなくとらえている。

 同氏はドナルド・トランプ候補を支援する一環として、不正投票やハリケーンに際しての救援活動にからんで偽情報を拡散したり、自分の論的を悪意のある馬鹿者だとあざ笑ったりしているのだ。

 米国もまた、経済面で素晴らしいパフォーマンスを上げ続ける一方で、その政治はさらに険悪で敵対的になっている。

 あと20日弱に迫った大統領選挙の投票日に向けて、民主党と共和党の意見対立や相互不信はこれまでになく激しくなっている。

 このような暗澹たる状況で、息をのむほど素晴らしい経済状態を米国は持続させることができるだろうか。

G7でも群を抜く経済パフォーマンス

 米国経済はこの30年間で、ほかの裕福な国々を大きく引き離した。

 1990年には主要7カ国(G7)の国内総生産(GDP)におけるシェアが約5分の2だった。今では半分を占めている。

 1人当たりGDPは西欧諸国やカナダを約30%、日本を60%それぞれ上回っており、これらのギャップは1990年以降でざっと2倍に広がった。

 ミシシッピ州は米国で最も貧しい州かもしれないが、同州の勤勉な住民の平均所得は英国人、カナダ人、ドイツ人のそれを上回る。

 最近では中国も後れを取るようになった。

 パンデミック前の数年間には米国を急速に追い上げたものの、2021年に米国の4分の3相当だった名目GDPは、今では米国の3分の2にとどまっている。

 この記録がここに来て危うくなっている。

 米国が党派性を強めたことを背景に、大統領候補のカマラ・ハリス氏とトランプ氏が、経済全体のパイを大きくすることではなく自分の支持者を守る政策の方に力を入れているからだ。

 米国が経済の優位性をすぐに失うことはない。

 だが、堕落した政治は遅かれ早かれ大きな代償をもたらし、その頃には来た道を後戻りすることが難しくなっているだろう。