(英エコノミスト誌 2024年11月9日号)
大統領選でのトランプ氏の圧勝はすべてのものを揺さぶる。
大統領選挙での衝撃的な勝利はドナルド・トランプ氏に、フランクリン・D・ルーズベルト(FDR)以来最も重大な意味を持つ大統領の座を与えた。
カマラ・ハリス氏を破った――それも辛うじてではなく大差で破った――ことで、第45代大統領は来年、第47代大統領になる。
いったんその座を降りてから間を置いて再登板するのは1892年のグローバー・クリーブランド以来だが、それではトランプ氏が成し遂げたことの正当な評価にならない。
同氏は米国と世界に対し、新しい政治の時代がどんなものであるかを示した。
いくつかの点でトランプ時代は非常に現代的だ。
この時代が可能になったのは、法と政治、政治とショービジネスとの区別が難しくなっている時にテクノロジーの変化とメディアの分裂が進んだからだった。
だが、それと同時に、トランプ時代は米国の古い考え方への回帰でもある。
FDRがファシズムとの戦いを見て、世界に秩序と繁栄をもたらす手助けをすることが米国の国益にかなうと確信する前、米国は移民に敵対的な態度を取り、貿易に対しては冷笑的で、外国にかかわることに懐疑的だった。
1920年代と1930年代にはそんな姿勢が暗黒時代につながった。再びそうなるかもしれない。
予想を上回る大勝
5日の選挙で勝利したトランプ氏は、世界に対して責任を負うことになった。
同氏は国民から権限を託され、恐らくはそれを行使するのに必要なワシントンの支配力も手に入れた。大接戦になるはずの選挙で、激戦州のほとんどを勝ち取った。
フロリダ、ニュージャージー、ニューヨークなど番狂わせは絶対にないと思われていた州でさえ大変動が起きたおかげで、一般投票でもハリス氏を上回った。
各種の世論調査で予想されていた通り、ヒスパニック(中南米系)の男性の間でトランプ氏への支持が急増した。しかし、ハリス氏が支持を期待していた女性票もトランプ氏に流れた。
共和党が上院を奪還し、かつ下院支配も維持できれば、トランプ氏の勝利は完全なものとなる。
民主党員の間では敗因をめぐって非難合戦が始まるだろうが、とりあえず言えるのは、ほとんど何もかもが敗北につながったということだ。
世論調査では、ジョー・バイデン大統領の下でこの国は悪い方向に進んでいるとの声が次から次へと上がってきた。
2021年夏に始まった猛烈なインフレについて、有権者は大統領を決して許さなかった。
バイデン政権はほとんどの米国人のそれとは異なる文化観を――とりわけ性やジェンダーに関する見方を――推進し、トランプ陣営はこの点を選挙広告で盛んに取り上げた。
最も打撃が大きかったのは、南の国境を不法に越えてくる人々を民主党が止められなかったことに全米の有権者が激怒していたことだ。
そして、バイデン氏の加齢による衰えを否定できなくなるまで隠してきたことが、こうした失敗に追い打ちをかけた。
その頃にはもう、トランプ氏を倒せる政治の才覚の持ち主を探す時間はなくなっていた。