平日朝の米原駅、ミラーに写り込む近江鉄道。徹底して存廃を検討し、「存続」の結論を出した近江鉄道線の事例からローカル線問題を考えるシリーズ

 ローカル線の存廃問題が、コロナ禍を契機として急浮上してきた。輸送密度が極端に低い路線を中心に協議を加速させるよう、政府が法整備を進めている。そんな中、専門家や関係者の間で注目されているのが、琵琶湖の東部を走る滋賀県の近江鉄道線だ。「存続か、廃止か」。県と10市町、それに鉄道事業者がひざを突き合わせて議論した結果、存続の道を選んだ路線だ。

 なぜ、近江鉄道線は存続の道を選択したのか。どのような勝ち筋があると見込んだのか。各自治体間で温度差はなかったのか――。近江鉄道線をめぐる協議会に有識者として加わり、活性化分科会の座長を務める土井勉氏がシリーズで紹介する。まずはプロローグとして、3回にわたり、全国のローカル線が直面する現状と課題について解説する。(JBpress)

(土井勉:一般社団法人グローカル交流推進機構 理事長)

コロナ禍が加速させたローカル線危機

1. ローカル線存続の危機の背景

 ローカル線という言葉からは、豊かな自然の中を通過する列車のイメージが思い浮かぶ。だが、そんなのどかなイメージとは裏腹に、いま多くのローカル線が存続の危機に面している。

 沿線における人口の減少や自動車利用の増加によるライフスタイルの変化などに伴い、鉄道利用者が減少し続けてきたからだ。

 経営が悪化した鉄道会社の個別の状況は、これまでも様々な形で取り上げられてきた。JR北海道やJR四国といった事例がそうだ1)

 さらに、2019年末からのCOVID-19(以下、コロナ禍と略)の大流行がこの状況を加速させた。

「不要不急の外出の自粛」「三密の回避」といった生活様式の変化が、外出そのものの減少を促し、鉄道をはじめとする公共交通機関の利用者数を大きく減らすことになった。