富山駅北口を走る低床車両。再整備された駅北側の広場「ブールバール」で開かれたマルシェは多くの市民でにぎわった(富山市提供)

「このままの形で維持していくことは非常に難しい」。昨年開かれた地方路線をめぐる国土交通省の有識者会議において、JR西日本は「輸送密度が2000人/日未満」の路線についてこう指摘した。そんな厳しい路線をJRから引き継ぎ、黒字化させた例がある。富山市の富山港線だ。地元主体でLRT化し、利用者数を1.5倍超にまで伸ばした。「廃止か存続か」で全国のローカル線が岐路に立つ今、改革を主導した森雅志・前富山市長に聞いた。(聞き手:河合達郎、フリーライター)

オペラとともに赤ワインを楽しむ

――国交省の有識者会議に、地方路線改革の実務を担った元首長という立場で出席しました。JR西日本が運行していた富山港線をLRT化する改革の中で意識したことは何でしたか。

森雅志氏(以下、森氏):目指したのは、市民生活の質を向上させる、ということです。公共交通はそのためのツールです。

 富山市には、本格的なオペラが上演できる2200席のコンサートホールがあります。その中にあるカフェはこれまでペイするのが難しく、経営者が次々と変わってきました。ですが、現在経営している方はうまく続けていただいています。

 それはなぜか。

 大きな要因の一つが、お客さんの来方が変わったということです。公共交通の利便性を高めた結果、お客さんもそれを使ってくるようになりました。

 すると、開演前からビールを飲む。幕間には赤ワインを求めて列ができる。そして終わってからは、周辺の店も含めて「さっきの彼らはカッコよかったね」なんて飲みなおす。JR時代は終電が21時20分でしたが、今は23時半過ぎです。

 質の高い暮らしとはこういうものではないでしょうか。

 普段、仕事は車で行くんだけど、きょうはコンサートがあるから公共交通で会社へ行く。そして、アルコールと一緒にオペラや演奏を楽しむ。そんな選択肢のある生活こそが、豊かで質の高い暮らしだと考えています。