「市政は平準的」との常識を捨てられるか
森氏:乱暴な表現ですが、あちこちで口にしていることがあります。それは「市域のどこにいても同じ水準の行政サービスが提供されるべきだ」という常識を、市民も行政も捨てなければならないということです。
人口が右肩下がりになっている時に、どこにいても同じサービスを提供し続けるということは高コストです。限界です。
税として還流してくる可能性がないところに投資しても意味がない。都市経営という観点に立ち、最適な投資をする。そう腹をくくった首長のいる地域は、持続性が出てくるでしょう。
例えば、ある山間部の橋梁が更新時期を迎えている場合。かつては橋の向こうに300人が住んでいたけど、今は20人しか住んでいないというところがあったとします。
更新する場合、同じ幅員のものにする必要はまったくありません。3キロ迂回して渡れるのだとすれば、廃止する議論も一緒にしなくてはなりません。
市政は平準的で、表面的な公平性を保たなければならないという、多くの人たちが思ってることを投げ捨てなければいけません。
――中山間地の暮らしはどうなるのでしょうか。
森氏:市民の生活の質の向上ということを考えれば、アイデアはあると思います。
今関心を持っているのは、交通制限速度20キロのゾーンを作れないかということです。住民は時速6キロのシニアカーで暮らす。通過交通は事実上入ってこない。交通事故死はありません。グリーンスローモビリティの町です。
米ジョージア州・アトランタから南に50キロほどのところにピーチツリー・シティという町があります。ここではみなゴルフ場にあるカートのような乗り物で暮らしています。高校生でも運転できます。
もともと、年金暮らしの高齢者がゴルフをしながらのんびり過ごすという町なので、住民同意の上で通過交通が入らないようにしてもいいじゃないかということにしたのです。もちろん、そのゾーンの外側に動脈となる道路はあります。
こういうゾーンが日本でも実現できないかと、大学教授らと真剣に検討しています。
繰り返しになりますが、交通は町づくりのための重要なツールです。都市政策が上位にあり、その中に交通政策があるという位置付けです。
市民の生活の質を上げるためにやると考えれば、交通だけを切り取ってB/Cの議論をするのはナンセンスです。市民のライフスタイルを軸に置けば、さまざまな発想と可能性が出てくると思います。