フランスのストラスブールのLRT

 地方の公共交通について、2007年から市町村がイニシアティブを取り再整備できるようになった。それまでは民間事業者が独自に整備していたため、非効率な路線となったり、統廃合が進まなかったりしたが、市町村が「ひとつの視点」で指揮を取れるようになった。

「現在、市町村による大規模な再整備として注目を集めているのが、栃木県宇都宮市です。同市は、LRTという最新の交通車両を導入し、高齢化が進む街の交通を再編しようとしています。重要なのは、その再編が市民の移動を支えるだけでなく、地域経済の活性化、街の価値の向上まで見据えていることです」

 こう話すのは、行政法の視点から地域交通を考える國學院大學法学部の高橋信行教授。LRTを使った宇都宮市の取り組みとはどんなものなのか。同氏の話をもとに紹介する。

【前回の記事】地方交通の「復活」を期待させる2つの潮流(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/59091

國學院大學法学部教授の高橋信行氏。東京大学法学政治学研究科博士課程修了(公法)・行政法専攻。今まで、警察庁の第二種免許制度に関する有識者会議や高齢者講習に関する研究委員会などに参加し、現代の道路行政に関する問題へ研究者としての知見を提供してきた経験を有する行政法の専門家。

ストラスブールで脚光を浴びた、交通による“まちづくり”

――今回は、宇都宮市の交通再編について聞きたいと思います。そもそもLRTとはどんなものでしょうか。

高橋信行氏(以下、敬称略) 近年増えている最新型の「路面電車」です。車が走る道路に専用レールを敷き、時刻表にもとづいて運行するのは従来の路面電車と同じですが、低床車(ていしょうしゃ)と呼ばれる車両を使っていて、車両のフロアの高さが非常に低く、乗る際の段差がほとんどないのが特徴です。また、騒音や振動も少なくなっています。

 LRTとは「ライト・レール・トランジット」の略で、路線バスよりは大きく、宇都宮市の車両は定員160人を予定しています。通常の鉄道とは異なり、道路と別個に線路をつくる必要がなく、既存の道路にレールを敷けるので、初期工事が低く抑えられるといったコスト面からも注目されています。

――路面電車というと一昔前のイメージでしたが、ここにきて再び注目されているんですね。

高橋 発端となったのが、フランスのストラスブールです。人口50万人ほどの規模の町で、LRTを軸とした再開発を行い、1994年から「トラム」と呼ばれるLRTが運行されています。再開発のポイントは、バスなどの既存路線をいったん統廃合し、中央駅や観光地の多い旧市街、大学、大規模商業施設、郊外の住宅地をトラムでつないだこと。そのトラムの路線を大動脈として、街の周辺部分を路線バスで補いました。