近年、移動や交通、モビリティ関連の動きが活発だ。自動運転をはじめとしたテクノロジーの進化や、カーシェアリングといった新形態の事業が登場している。

 それとともに、免許のあり方や交通ルールの議論も盛んになっている。たとえば最近は、高齢ドライバーの事故が話題となった。しかし、この類の課題は今に始まったことではないという。

「高齢ドライバーの議論は1980年代からスタートし、ここ10年でも高齢者講習の改正が行われています」。そう話すのは、行政法を研究する國學院大學法学部の高橋信行教授。上述の法改正について、警察庁の研究会メンバーでもあった同氏は、「高齢ドライバーと法律」の変遷をどう捉えるのか。道路行政を軸に近年のモビリティをたどる本連載、初回は「高齢ドライバーと道路交通法」を取り上げる。

國學院大學法学部教授の高橋信行氏。東京大学法学政治学研究科博士課程修了(公法)・行政法専攻。今まで、警察庁の第二種免許制度に関する有識者会議や高齢者講習に関する研究委員会などに参加し、現代の道路行政に関する問題へ研究者としての知見を提供してきた経験を有する行政法の専門家。

高齢者の事故率はどれくらい多いのか

――高橋先生は、道路交通法(道交法)を含む行政法の研究をされています。その視点から、最近議論されている高齢ドライバーの免許についてどう見ていますか。

高橋信行氏(以下、敬称略) 高齢者の運転に関しては、以前から重要なテーマとして議論されてきました。確かに高齢者の事故は多く、警察庁の統計データを見ると、75歳以上のドライバーの事故数が高くなっていることがわかります。

「平成30年中の交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取締り状況について
(警察庁交通局)」より抜粋

 年齢層別の死亡事故数(免許保有者10万人当たりの数値)を詳しく見てみましょう。警察庁による「平成30年中の交通事故の発生状況」によると、全世代の中で85歳以上が抜けて多いことがわかります。次に16〜19歳が入りますが、以降は、80〜84歳、75〜79歳と続きます。

 この傾向は近年始まったものではありません。そのため、何年も前から高齢ドライバーを対象にした道交法の改正が行われてきました。