(写真左)Strategy Partners 代表取締役社長 兼 Wisdom Evolution Company 代表取締役社長 西口一希氏
(写真右)大丸松坂屋百貨店 常務執行役員 デジタル戦略推進室長 兼 DX推進部長 林直孝氏

 顧客と企業の距離を限りなくゼロにする「AIエージェント」の時代が迫っている。従来のビジネスモデルが通用しなくなる中、企業が持続的成長を遂げるには何が必要か。その解を探るイベント「AI×顧客データが導く価値創造の未来」が2025年12月5日(金)に開催された。西口一希氏をはじめ、アクセンチュアの山崎孔輔氏、プレイドの相馬直明氏、大丸松坂屋百貨店の林直孝氏が登壇。AI時代に競争優位の源泉となる「1st Party Data」の重要性や、持続的な利益をもたらす“良い売上”の見極め方など、AI時代の新たな生存戦略が提示された。

顧客別利益管理の徹底が「良い売上」を最大化する

 基調講演では、Strategy Partners 代表取締役社長 兼 Wisdom Evolution Company 代表取締役社長の西口一希氏が登壇。「AI時代に追求すべき『持続的な利益を生む売上』」と題し、売上のうち、利益を生む“良い売上”を最大化する必要性を提言した。

 西口氏はまず、あらゆるビジネスの基本構造を「Who(顧客)」「What(商品・サービス)」そしてそれをつなぐ「How(手段)」であると定義した上で、企業活動の本質とは、WhoとWhatの間にある「5つの距離(認知・コミュニケーション・流通・取引決済・潜在ニーズの自覚)」を縮めることにあると指摘した。

「これまで企業は多大なコストをかけてこの距離を埋めてきましたが、AIはこの5つの距離をほぼゼロにする方向へ、強烈なスピードで世界を動かしています」(西口氏)

提供:Wisdom Evolution Company
拡大画像表示

 その象徴が、今後普及が見込まれる「AIエージェント」だ。消費者が「欲しい」と思った瞬間に、専属のエージェントが世界中のあらゆる選択肢からベストな商品を提示し、後は決済ボタンを押すだけ、というところまでを代行する世界が訪れるというのだ。これは、顧客と企業の間にAIという新たなレイヤーが介在し、「AIに選ばれない商品は、顧客の選択肢にすら入らない」という二重の関門が生まれることを意味する。

 こうした激変の中で企業が生き残るために、西口氏が提唱するのが「売上の質」の見極めだ。たとえ財務諸表上の数字が同じでも、その中身には“良い売上”と“悪い売上”が存在するという。

「“悪い売上”とは、新規顧客の初回売上のうち、リピートにつながらないものです。対して“良い売上”とは、継続利用によって生まれる売上です。これらは獲得コストがかからないため、純粋な利益となります」

提供:Wisdom Evolution Company
拡大画像表示

  多くの企業は期間別の売上総額を追うあまり、この区別がついていない。しかし、顧客データごとに長期間の時系列データを可視化すれば判別は可能になり、“良い売上”を最大化し、“悪い売上”を最小化できるようになるという。

 成功事例がすでにある。宿泊予約サイト「一休.com」の取り組みだ。同社では顧客別利益管理を徹底し、初回利用時の行動データから将来のロイヤル顧客候補を予測。有望な顧客には手厚いサポートを行う一方、定着見込みの薄い顧客にはクーポン配布や値引きなどのコストを一切かけないという、メリハリのある投資を行っている。

「この戦略の徹底により、一休.comは競合他社に比べ、会員数では劣るものの、高単価なロイヤル層の獲得率や利益率が圧倒的です」

 こうした戦略の立案と実行も、今後はAIによって自動化されていくと西口氏は言う。企業は持続的な利益をもたらす“良い顧客”を見極め、そこに資源を集中させる経営へとシフトする必要がある。

AIエージェントの真価を拓く「1st Party Data」

 続いてのセッションでは、アクセンチュア ソング本部 マネジング・ディレクターの山崎孔輔氏とプレイド パートナーセールスチームの相馬直明氏が登壇した。

 プレイドは1st Party Dataのリアルタイム解析を強みとするKARTEシリーズのプロダクトと、CX戦略策定から実行まで担うプロフェッショナルサービスを提供する企業だ。本セッションでは「『消費者エージェント』と『KARTE』が実現する、AIドリブンな次世代マーケティング」と題し、AIエージェントの真価を引き出す「データの在り方」について議論を交わした。

プレイド Business Growth Dept Industry Sales 3 Team/Team Head 兼 Partner Sales Unit/ Unit Manager 相馬 直明氏

 始めにアクセンチュアの山崎氏は、生成AIの進化を4段階で整理した。現在普及している生成AIから、複数タスクを自律的に処理するAIエージェント、さらに複数エージェントがチームとして協働するマルチエージェントへと進化。続く第4段階について、山崎氏は「人体は約1億通りの細胞の役割分担によって成り立っているが、AIにはそれ以上の役割を持たせることで、人間を超える能力を持つ集合体になる」と語る。

 では、こうした進化はマーケティングをどのように変えるのか。山崎氏は「AIエージェント同士でのテストマーケティング」が可能になると語る。

「過去の膨大な発話データをマインドマップとしてネットワーク化することで、人間の記憶構造を再現し、表面的な属性だけでなく、その人がなぜその商品を欲するのかという深層心理や、本人さえ気づいていない潜在ニーズを可視化した『デジタルツイン(仮想顧客)』を生成します。そこに、AIが生成した数千パターンの施策をぶつけることで、人間では思いつかないエッジの効いた施策を高速かつ低コストで検証できるのです」(山崎氏)

アクセンチュア ソング本部 マネジング・ディレクター 博士(生命科学) 山崎 孔輔氏

 実例として、多くのファンを持つアーティストのファンをさらに増やすというプロジェクトが紹介された。

 このプロジェクトではまず、SNSの書き込みなどをもとに既存のファンのエージェントを生成し、分析。ファン層は6つのクラスターに分類できること、特定の動画がトリガーとなり、歌詞に共感するファンが増えたというプロセスなどが可視化された。

 この分析に基づき、AIエージェントは新たな施策を提案。バーチャル環境で検証した結果、その施策でファンを新たに15%ほど増やせることが見込めるとわかり、採用に至ったという。

 AIエージェントがその真価を発揮できるかどうかは、ベースとなるデータの独自性にかかっている。

「3rd Party Dataだけをベースにエージェントを構築しても、競合他社と似通ったものになり差別化できません。重要なのは、企業が独自に保有する行動ログやアンケートなどの『1st Party Data』です」(山崎氏)

 しかし、単なるデータの羅列だけではAIは真価を発揮できない。そのデータがどのような文脈(コンテクスト)で生まれたのかを理解させる必要がある。そこでプレイドが提示するのが、顧客コンテクストを自動理解するAI「Context Lake」だ。

提供:プレイド
拡大画像表示

 同社が提供するCXプラットフォーム「KARTE」は、2015年のサービス提供開始以降、現在では月間10億人分の1st Party Dataをリアルタイムに解析してきた実績を持つ。この知見を活かし、数値などの構造化データだけでなく、テキストや画像といった非構造化データも含めたあらゆる情報から「顧客コンテクスト(文脈)」を自動で理解し、蓄積するデータ基盤として「Context Lake」を開発した。

 Context Lakeの最大の特徴は、現場の体験価値向上と経営レベルの事業戦略を直結させる点にある。蓄積されたデータには顧客の意図、背景、行動の前後関係なども含まれる。こうしたコンテクストデータは戦略的な活用が可能な統一されたデータ形式として自動で構造化・蓄積され、売上や利益率といった経営指標を顧客行動や文脈の観点から詳細に分析可能にする。

 さらに、その戦略に基づき、各業務領域で文脈に即した最適な顧客対応が実行され、その結果がまたデータとして還流される。プレイドの相馬氏は、これからの企業変革はデータドリブンから、AIが判断・実行を担うエージェントドリブンへ移行すると指摘。「1st Party Dataから得た独自のコンテクストデータをAIと連携させることが、企業のトップラインを伸ばす鍵になる」と語り、セッションを締めくくった。

データの可視化が生んだ発見と、人間にしか提供できないセレンディピティ

 最後に、大丸松坂屋百貨店 常務執行役員 デジタル戦略推進室長 兼 DX推進部長の林直孝氏が「大丸松坂屋百貨店が目指すAI×価値共創経営」と題して、AI時代の百貨店の姿について語った。

 大丸松坂屋は、サブスクリプション型ファッションレンタルサービス「AnotherADdress」において、行動履歴に基づくレコメンドや画像検索に加え、LINEミニアプリで商品を提案する「AIスタイリスト」の実装を進めるなど、AI活用に積極的だ。社内業務でも生成AIプラットフォームを導入し、劇的な効率化を実現している。

提供:大丸松坂屋百貨店
拡大画像表示

 林氏はそれ以前にも、グループ企業のパルコでさまざまなデジタル施策を導入してきた。従来、小売販売店で収集できるデータはPOSデータなどに限られていたが、いち早くスマホ向けアプリ『POCKET PARCO』を開発・導入したことで、来店前後の文脈を含めたカスタマージャーニーを可視化し、データ分析の土台を整えた。その結果、特定のブランドのみを利用する顧客と比べると、複数のブランドを買い回る顧客の方が、翌年の特定ブランドへの継続利用率が圧倒的に高いことがわかった。

「買い回りがロイヤルティを高めるという発見は、館全体での回遊促進の重要性を裏付けました」と林氏。現在は、リアルとデジタルの個客行動データとテナントの商品・在庫データをAIで解析・統合し、顧客の潜在ニーズと商品を最適にマッチングさせるプラットフォームの構築を目指している。

 こうした時代に、小売の現場で人間にできることは何か。常にそれについて考えているという林氏は、「セレンディピティ(素敵な偶然の出会い)」をキーワードに挙げた。「感動は人間にしか生み出せません。AIなどのテクノロジーに任せられるのは、一人ひとりのお客さまにとって最適な接客をするための支援です」と林氏。それによって小売業は今後も価値を提供し続けていくと語った。

 本イベントを通じて浮き彫りになったのは、AIはあくまで手段であり、その力を最大限に引き出す源泉は「1st Party Data」にあるという共通認識だ。

 経営視点での「良い売上」の追求、データ視点での「文脈理解」、そして現場視点での「感動体験」の創出──。それぞれのレイヤーで語られた変革は、いずれも企業が独自に蓄積した高解像度な1st Party Dataがあってこそ実現する。

 3rd Party Dataにはない、自社だけのデータをAIが理解可能な「コンテクスト」として活用できる企業こそが、これからの変革期に持続的な価値を生み出し続けるだろう。

<PR>

「顧客コンテクスト(文脈)」を自動で理解・蓄積するデータ基盤「Context Lake」の詳細はこちら
プレイドへの問い合わせはこちら