国際情勢の緊迫化、サプライチェーンの混乱、原材料費や人件費の高騰、サステナビリティへの関心の高まり――。調達を巡る環境が複雑化する中、日本企業の多くが調達機能の重要度を十分に認識せず、理解のギャップが拡大している。その溝を埋め、環境変化に適合した調達機能へとアップグレードすることは喫緊の課題と言っていい。本連載では、『BCG流 調達戦略 経営アジェンダとしての改革手法』(ボストン コンサルティング グループ 調達チーム編/日経BP)から内容の一部を抜粋・再編集し、調達機能のあるべき姿と機能向上に向けた取り組みを解説する。
第3回は、調達を競争力強化へとつなげるテクノロジーの活用事例を紹介する。
<連載ラインアップ>
■第1回 インテル、IBM、ファイザーほか製薬大手は、なぜサプライチェーンに大規模投資を行うのか?
■第2回 最安値が正義ではない、調達部門が直面しやすい「トレードオフ」の3つのパターンとは?
■第3回 アマゾンは、いかにして調達における「競争優位性」を築き上げたのか?(本稿)
■第4回 調達業務が高度化する中、日本企業はなぜ専門人材の供給・育成に注力しないのか?(11月15日公開)
■第5回 CPO(最高調達責任者)設置を基点とした、調達の「経営アジェンダ化」と「ガバナンス構築」のポイントとは?(11月22日公開)
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データやテクノロジーの活用
データやテクノロジーの活用は、調達に不可欠なものとなっている。例えば、リスク情報の収集、評価、対応策の検討、実行という一連のプロセス管理の品質維持・リソース最小化には、デジタルツールがフル活用されている。
2022年の調査でIDCが1100人以上の調達リーダーに、今後12カ月、および3年の間にどのテクノロジーを導入する予定かを尋ねたところ、12カ月間での導入予定比率に対して3年間での導入予定比率が最も大きかったのがAIとブロックチェーンだった。この2つについては中長期を見据えて導入が検討されていることがわかる。
中でもAIはカギとなり、供給リスクの見える化、リアルタイムでの需要予測や在庫管理、輸送ルートの最適化、その他調達バリューチェーンの各段階で幅広く活用されている(下図)。業務フローを合理化し、人的ミスを減らし、意思決定の精度を向上するために、(チャットGPTのような)生成AIを使い始めている企業もある。主な用途としては、契約書や提案依頼書の作成、需要予測の自動化などが挙げられる。AIを活用して意思決定を自動化することで、業務の煩雑性を低減し、リーダーやスタッフは時間を付加価値の高いタスクに振り向けられるようになる。
次世代テクノロジーへの投資では、在庫管理の改善など、特定の成果の達成を目指すことがきわめて重要だ。BCGの調査によると、デジタル投資全体に占めるAIへの投資額の割合が高い企業ほど、特定の成果の達成を目的とした投資で、ますます高いリターンを得られることがわかっている。
シーメンス、ルフトハンザ、フィリップス、ヘンケルなどの業界大手は、既に調達プロセスの自動化のためにこれらの先進技術を導入している。ここではアマゾンの例をご紹介したい。
■ 事例 テクノロジーを基礎に競争優位性を築くアマゾン
アマゾンの調達における競争優位性は、AIを活用した需要予測とデジタルプラットフォームを活用したサプライヤーパートナーシップに支えられている。
需要予測では、大きく3つの工夫がある。まず、社内の膨大なデータの活用である。具体的には、顧客の購入履歴、商品の閲覧履歴、検索履歴、レビューなどの情報をインプットとし、後述するモデルに投入することで精度の高い予測を可能にしている。
また、予測の精度を向上させるために外部データも効果的に活用している。天気予報、祝日、イベント情報などがその一例で、大きなスポーツイベントや映画のリリースが特定の商品カテゴリーの需要に与える影響を推計し、予測に織り込んでいる。また、一部の商品やカテゴリーは季節性やトレンドに影響されるため、時系列データも活用する。加えて、サプライヤーとも需要予測のデータを共有することで、さらなる精度の向上に取り組んでいる。